What if I work and
live in Kyoto…

  • INTERVIEW

2022.05.06

注目されるイノベーター育成プログラム 京都だからこそ可能性が広がる、企業と大学の未来

先行きが不透明で将来の予測が困難だと言われる VUCA の時代。新しい課題を発見したり、既成の枠組みを超えて斬新なアイデアを発想するための手法として、近年デザイン思考やアート思考が注目を集めている。京都ではこの分野の大きな動きとして、歴史を作るイノベーターを育成するためのプログラム「Kyoto Creative Assemblage」が話題だ。その発起人である京都大学経営管理大学院の山内裕さんと京都工芸繊維大学の水野大二郎さんに対談いただいた。京都市には、京都大学や京都工芸繊維大学や京都市立芸術大学のような最先端のビジネスやデザインの研究を行う教育機関があり、企業や行政との共同研究や社会人の学びの場にもなっている。このアカデミックな都市・京都で、企業や起業家はどのように可能性を広げることができるのか。2人のこれまで実践とこれからの活動を通じて紐解いていきたい。

京都工芸繊維大学のKYOTO Design Lab(D-lab)」にて。京都大学経営管理大学院教授の山内裕さん(左)と京都工芸繊維大学教授の水野大二郎さん(右)。D-labは、デザインと建築を柱として産学官を横断する教育研究拠点となっている。

プロフィール

専門のファッションデザイン、デザインリサーチを軸としながら、デザインと社会をつなぐ多様なプロジェクトの企画・運営に携わっている。

水野 大二郎(みずの・だいじろう)

デザインリサーチャー。京都工芸繊維大学デザイン学教授、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授 。2008年、英・Royal College of Art ファッションデザイン博士課程後期修了。芸術博士(ファッションデザイン)。京都大学デザインスクール特任講師、慶應義塾大学環境情報学部准教授を経て現職。デザインと社会を架橋する多様なプロジェクトの企画・運営に携わる。編著にファッション批評誌『vanitas』(アダチプレス)、共著書に『インクルーシブデザイン』(学芸出版社)、『Fashion design for living』(Routledge)、共監訳書に『クリティカルデザインとは何か』(BNN新社)など。

京都府出身。フィールドワークの現場は主に飲食店だという。カメラとボイスレコーダーを常に携帯し、サービスの現場をリサーチする。

山内 裕(やまうち・ゆたか)

京都大学経営管理大学院教授。経済学部・経済学研究科、京大デザインスクール兼務。1998年、京都大学工学部卒業、2000年、工学部情報学研究科修了。UCLA Anderson Schoolにて経営学博士。Xerox Palo Alto Research Center  研究員を経て、2021 年より現職。専門分野は組織論、サービス、エスノグラフィ、エスノメソドロジー、デザイン。著書に『「闘争」としてのサービス』(中央経済社)共著書に『組織・コミュニティデザイン』(共立出版)などがある。

京大デザインスクールをはじめ、
民間企業でも注目を集めるデザイン教育

ーまずは、お二人の所属先と研究活動について教えてください。

水野さん 
現在は京都工芸繊維大学の教授と慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の特別招聘教授として研究活動を行っています。今回の対談場所でもあるこの「KYOTO Design Lab(以下D-lab)」は、大学内外の研究組織、民間企業、自治体などとコラボするためのプラットホームとして2014年に始動しました。共同研究を行ってきた企業としてはシャネルや大阪ガス、ヤンマー、ワコールなど多数あります。また、海外の大学だとスイス・チューリッヒ工科大学、シンガポール国立大学、米・パーソンズ美術大学、英・ロイヤルカレッジオブアートなどと教育・研究の連携などを行っています。具体的なプロジェクトでは、例えばワコールさんの場合は、デジタルやバイオ技術を応用した持続可能な未来の下着のデザインを、大阪ガス・エネルギー技術研究所さんとは3Dフードプリンタを使った新しい食サービスの探索などをしています。

大阪ガスとの共同研究にも使われているという3Dフードプリンタ。3Dプリント技術をベースに、ペースト状に加工された様々な食材を立体的な食品として生成することができる。

山内さん 
私の所属は京都大学経営管理大学院で、MBAが取得できるビジネススクールになります。工学の教員が3分の1、経営学の教員が3分の2ほど所属しています。私は経営学の組織論という分野が専門ですが、2010年に経営管理大学院のサービス価値創造プログラムに着任してからは、サービスやデザインに取り組んでいます。マーケティングの分野では、以前まで商品となる“モノ”がないと理論が説明できなかったのですが、2004年頃からサービスを中心に考えようというパラダイムシフトが起こり、デザインもITもマーケもすべてを「サービス」として捉える考えが主流になりました。2012年から京大で始動したデザインスクール(デザイン学の博士課程)の立ち上げにも携わりました。今はサービスにデザイン、アート、カルチャーを混ぜ込んでプログラムを構築しようとしているところです。

ー京大とデザイン、意外な組み合わせにも思います。京大がデザインスクールを立ち上げた経緯にはどのような理由があるのでしょうか。

山内さん 
2012年当時、文科省の博士課程の変革の動きがあって、京大では「デザイン」をキーワードにしたプログラムを取り入れようと考えたのが直接のきっかけです。デザインスクールでは複雑な社会問題を研究対象としています。具体的にどんな人材を育てたいかといえば、マーク・ザッカーバーグ、スティーブ・ジョブズのようなイノベーター。彼らは大学を中退していて博士課程を出ていないので、前提として矛盾もあるのですが(笑)。ただ、これまでのように論文を書き、プログラムを作って実験するだけではなく、もっと社会の根本的な課題を捉えて、学んだことを社会に還元する人材を作ろうというのが狙いです。2000年代の中頃から「デザイン思考」という方法がアメリカで始まり、日本の企業も注目していました。その後、京大では「デザイン」と「イノベーション」を産学官で結ぶ京都大学デザインイノベーションコンソーシアムも設立しました。

ー水野先生も京大デザインスクールの立ち上げに関われていたと聞きました。

水野さん 
このような新しい教育・研究拠点の立ち上げにはこれまでも何件か携わった経験があります。1か所目が京都造形芸術大学のウルトラファクトリー、2か所目が慶応SFCのファブスペース、3か所目が京大のデザインスクールでした。このときはメイカームーブメント(3Dプリンタやレーザーカッターなどデジタルファブリケーションを利用した産業革命のこと)を背景に、デジタル技術を応用した新しい活動を作っていこう、起業家をつくろうと盛り上がり、色々な策を講じました。

D-labの1階は広々としたワークスペースに。3Dプリンタやレーザーカッター、3Dレーザースキャナーなど最先端のデジタル工作機械が数多く並ぶ。D-labは「公共の建築・空間」でグッドデザイン賞も受賞した。

ー京大デザインスクールやD-labには、様々な企業が今後のビジネスの可能性について相談に来られると思います。企業が直面している共通の課題はありますか。

水野さん 
企業側は「高品質・高信頼」の神話が根強く、差別化を図るには製品の品質の向上だと考えがちです。一般的に、日本では受験勉強をして大学に進みます。受験勉強をこなすと、品質向上など確実で構造化した問題に対処するのは上手になります。一方で不確実でカオスな状況に対し、新しいアイデアを生み出すことが難しくなります。まずは学びに対するマインドセットを変えない限り、こうした状況を打破するのは難しいと考えています。

ー山内さんもデザイン教育を通じて、まさにそのマインドセットを切り変える役割を担ってこられたと思います。実践する上での課題は、どこにあると思いますか。

山内さん 
デザインの教育は、まさに新しいアイデアを発想するためのマインドセットや様々な手法を確立し、実際に重要な成果を社会にもたらしてきたと思います。しかし、個人のマインドセットを切り替えることができたとしても、企業人として現場に戻ったときに、残念ながら何もできないままで終わってしまうことも多い。

ー決裁権のある方が変わらないと、機能しないということですね。

山内さん 
個人ではなく企業として主体的に取り組んでもらわないと難しい面がある。いま私たちが開発しているプログラムの「Kyoto Creative Assemblage」では、企業にも参加してもらいたいと考えています。企業として正式に参加してもらい、そこから個人が受講する。すでにこうした産学連携の活動をヤマハ発動機と行い、一定の成果を得ています。これなら企業に対しても貢献できるという手応えも感じており、今後様々な企業と一緒にやっていきたいと考えています。

京都大学、京都市立芸術大学、京都工芸繊維大学の3 大学を中心に、時代を読み解き、社会の方向性を切り開く人材を育成するプログラム「Kyoto Creative Assemblage」。2022 年度より開講。佐藤可士和さんに作っていただいたビジュアルアイデンティティ。

社会を「よく見る」こと、歴史を振り返ることが、
未来をデザインするための一歩

ーデザイン教育を重要な成長戦略と捉える企業や組織も増えています。ヤマハ発動機さんとは具体的にどのような共同研究を行っているのでしょうか。

山内さん 
ヤマハ発動機さんのオートバイは北米市場で好調で多くのファンがいます。ところが、なぜそこまで売れ行きがいいのかが分からないと。理由が分からなければ再現性もないわけで、上手くいかなくなる可能性もある。そこで、なぜヤマハのオートバイを選ぶのか、直接、社員の方々とアメリカに渡り、ジョージア州やテキサス州などの家庭を一軒ずつ回ってリサーチしました。そうして紐解いていくと、色々なイデオロギーが見えてくるわけです。例えば、アメリカ特有のフロンティアスピリットや自立心などが影響し合い、また自分ひとりでやりとげるというアメリカンドリーム、さらには自宅を担保にしてまで我が子をプロレーサーにしようとする家庭があることや、トップレーサーほどバイクに執着せずアマチュアほど拘っていることなど様々な実情が見えてきた。つまり、市場の背後に、企業が考えているよりもっと複雑な要因があるわけです。単に人が何を求めているかというニーズを水準ではなく、文化とその変化を見ていくことで、これまで断片的にしか把握していなかったものがつながって、全体像が見えてきてきます。

―エスノグラフィの専門家として生活者の現場で起きていることを調査なされたのですね。企業は、しばしば自己中心的に解釈しがちだと。

山内さん 
目の前に次の時代が見えているのに、企業側が見ようとしていない、と言ってもいいかもしれません。例えば、ヤマハ発動機さんも市場投入しているモトクロス。オフロードに作られた専用コースでレースを行うモータースポーツですが、60年代からヨーロッパで盛り上がり、既に市場は成熟している。しかし、いまYouTubeでは全く違う乗り方をしている人が出てきている。本来の用途ではない高速道路で、10人くらいがバイクの前輪を上げたウィリーの状態で、車と車の間を走り抜けているのです。もともとはボルチモアなどの都市部のアフリカ系の若者たちが始めました。もちろんすごく危険なので警察が取り締まる。でも、盛り上がっている流れがあり、ヒップホップやラップのミュージックビデオにはこうした乗り方が登場しているわけです。今は世界中に広まっています。こういう乗り方をしている人たちは違法でワルなのかというと、「バイクが自分たちを救ってくれた」と言うのです。近所のギャングの抗争に巻き込まれ、麻薬の取引に手を出していくところを、バイクというギャングの境界を越えてのめり込むものがあることで、救われたということです。さらには、これは新しいスポーツだ、これをメジャーなスポーツにしたいと言うのです。そして、YouTubeでトリックを披露して有名になった人たちは、自分のアパレルブランドを作って、今や起業家です。新たなビジネスにしようとしているのです。

「Kyoto Creative Assemblage」のプレイベントの様子。アカデミアのみならず、インフォバーン、資生堂、ヤマハ発動機などの企業も参加し、実践的なカリキュラムを構築する。

―現在起きている消費者の様々な動向に目を向けて、未来の市場を予測されたわけですね。

山内さん 
新しい市場の“兆し”であるにも関わらず、モトクロスをやっている人たち、いわば“正統派”の人たちは相手にしようとしないんです。つまり、見ようとしていないから実情が見えない。オリンピックを観た年配の人たちが、スケートボードに対して「これはスポーツじゃない」と認めようとしないことに似ていると思います。実際、スポーツも相手を打ち負かすアチーブメントスポーツというスタイルから、ライフスタイルスポーツへと流れが変わってきている。この潮流はモータースポーツにもある。何が言いたいかというと、未来には今の時代を踏まえた流れがあり、その歴史を踏まえて理解することが大切なんです。結果、新商品をどんな世界観で作ればいいか、マーケティングではどんなメッセージを出すかが見えてくるわけです。

水野さん 
現在を読み解くことはもちろん重要ですが、それと同様に過去を読み解くことが大切だと思います。私は未来のことばかりやっているように見られるのですが、人間と衣服の関係性が歴史の中でどう変化したのかを見ることは非常に有益だと考えています。高品質や高性能なモノを作るという、最後の出口の部分だけを考えるだけでは差別化を図ることはできない時代です。社会を読み解く、歴史を読み解くなかでコンセプトや戦略を練り、実行する。それを徹頭徹尾、調査し体験することが重要ではないかと考えています。

山内さん 
何かが成功し、社会で価値を持つのは、人々が振り向くとき。それは、新しい時代を表現して呼びかけたから人々が振り向いたわけです。つまり、人々がいま置かれている状況に対し、何かしらの違和感やフラストレーションを覚えているとき、新しい世界を表現するとそこに飛びついたということ。ヒットした商品やサービスとは、ニーズを満たしたからとか、カッコいいからとか、使いやすいからといった理由だけで生まれるわけではない。創造性とは、過去のしがらみを離れて自由に発想することではなく、むしろ歴史に敏感になり、現在を捉え直し、新しい時代を表現していくことなんです。社会の些細な変化をよく見て、風がどこに吹いているかを素直に感じ取れば、次の時代を表現できると考えています。

ー「Kyoto Creative Assemblage」に参加する企業は、具体的にどのような成果を期待できますか。

水野さん 
デザイン思考などでは定型化したフレームワークがありますが、これも多くの企業や組織が導入しています。参照にしている方法は大抵同じですから、同じような結果しか出てこない。また、未来を予測するにしても、ネットには数多くの未来に起こり得るシナリオが既に出ています。我々が「Kyoto Creative Assemblage」の講義で考えているのは、そうした未来を仮にでも実際に構築して、その中を生きてみること。一歩、二歩踏み込んで、例えば未来に必要な人工物を曲がりなりにも作って、実際に使ってみたときに起こり得る問題や起こり得る課題は何なのか。それを具体的に発見し、望ましい方法は何かを導き出す。もはや未来シナリオは、誰でも作れるようになってきました。それを用いて、何がさらに面白いのか、何がまだ見落とされているか、ということまで考えてみることが重要だと考えています。

京都は世の中に迎合しない文化がある
批評する土壌があるからこそ、新たな視点を得られる

ー水野さんは東京に研究活動の拠点をおかれていましたが、東京と京都の違いをどのように感じていますか?

水野さん 
東京にいると、経済やテクノロジー主導の新しい都市像を描きがちで、ライフスタイルですら一定のアルゴリズムの統治に基づく技術決定論的なものになる。一方、京都を見ると避けられない歴史的資産、都市の構造のなかにレガシー(遺産)が分かち難く組み込まれています。それ自体が京都の魅力であり個性でしょう。ここでは技術主導だけで何か新しいものを作ってインストールし、合理化や効率化だけを追求しても楽しい生き方に繋がらないと思いますね。

ー京都はコンパクトシティとも言われ、都市の規模も異なります。

水野さん 
中心市街地ではお金持ちとお金のない人が分け隔てなく、同じエリアに住める構成になっているのも特色でしょう。裏表が混在する都市構造の中で、歴史的な背景に根ざして地域の個性が作られていることに気づきます。都市の設計思想が今の東京とはだいぶ異なるし、京都ではそうした視点を持って新しいことを考えることができます。このような気づきは、企業活動や事業の発想に影響を与えると思います。

山内さん 
私自身、京都で生まれ育ってきて思うのは、京都の文化は世の中に流されないところがあるんじゃないかと。京大は典型的ですよね。よく「京大=変人」といわれるけれど、学者が普通に仕事をしていたら変人になるんです。ほかの人が言っている「当たり前」のことを常に疑ってかかるわけだから。京都は世の中の人が言っていることと反対のことを言うような、そういう土壌がある気がします。

ービジネスという面から見ると、京都にビジネス拠点を構える利点はありますか。

山内さん 
社会をよく見て、捉え直して、新しい時代を表現するというお話しをしましたが、そのためには企業などの壁を越えて日常的に社会についての議論が起こっている必要があります。例えば、京都は工芸や料理屋さんなどでは常に町の中で議論が起こっていますよね。作り手も客もお互いの顔が見える関係性の中で、それなりの批評がある。何が良くて何が悪いのか、という議論が常に起こっているということは、この場に身を置くだけで自然と議論が耳に入ってくる。つまり、京都にいれば自分の行動や仕事のチョイスも変わってくるはずなんです。企業内でもこういった姿勢が必要かと。新規事業をやろう、アイデアを考えよう、という前に日頃から社会情勢なども含め、疑問に思ったことを議論していかないといけない。なぜロシアがウクライナに侵攻したのか、といった仕事とは関係ないことも日々議論することで、洞察力が身につくし、新しい気づきが生まれる。何か新しいモノや潮流が出てきたときに批評する文化があることは、ビジネスにおいても強みになると思います。

水野さん 
そこは東京との大きな違いですね。例えば、恵文社やホホホ座、MEDIA SHOPのようなインディペンデント系の書店やカルチャースポットが主催するイベントでは、集まってくる人たちで批評が行われることをよく見かけます。東京ですとビジネスを気にして批評的なこともいえない状況がありますが、京都は批評を良しとする土壌があるので、新しい視点を得られることが多いです。これは体感としても感じるところです。

D-labの2階は事務機能とプログラムやチーム制作が可能なワークショップスペースになっている。

東京でいえば、京都は丸ごと「御茶ノ水」のようなもの
凝縮されたカルチャーの中に密度の濃い出会いがある

ー京都は学生の町であり、採用市場としても注目されています。お二人は、どのような人を育てようとしていますか。

水野さん 
これまで学生には、就活の際に大手の採用サイトを使わないところから始めてほしいと伝えています。自分の力で企業を知り、6ヶ月以上の長期インターンなどを通して新しい関係を企業と築き、新しい視点や技術を磨きつつ協調性やリーダーシップなどのコンピテンスを生み出し、最終的に自分自身で新しい仕事を作り出せるような人が必要かな、と。今はそんな人材が少なすぎる。

山内さん 
学部生には「よく見る」ことを徹底的に鍛え上げています。今の文化を読み解いたり、社会を紐解いたり、すっと流れてしまうことを立ち止まって考える作業をしている。昨年度やったのは、バーのデザイン。知人が祇園の雑居ビルでバーをやっているけれど、今の時代では流行らない。ならば、若い人に受けるバーとは何かをデザインさせる。例えば、日常系YouTuberが流行っているなら、それが人々に受ける背景を読み解き、それをバーで表現するにはどうしたらいいか、どんな世界観を作り上げるべきかを考える。今の社会をきちんと感じ取って読み解き、その違いを説明できて、表現できることが大切。これができたら、すごく強い。そんな人材を育て上げたいと思っています。

水野さん 
専門的スキルや複数の横断的なスキルのほかにも、人類社会科学的な素養や一般教養も必要になっています。コンセプトを構想する成立過程において、なぜこうしたものがここに存在しているのか、ということを読み解ける力がない限り、面白いものを面白がる力が育たないと考えています。これらを組み合わせたら、新しい形の事業を自分で作っていける。

ー人材育成の面では、京都の都市が影響を与える部分はありますか。

水野さん 
私自身は東京出身ですが、東京はスケール感として大きすぎます。複数の街に人材が散ってしまうので、いろんな人たちが繋がって話をする機会がなかなか持てない。一方、京都はコンパクトシティのスケールが保てているため、頑張らなくても人が自発的に集まる拡張家族とでも呼べるような環境がある。イベントや飲み屋を渡り歩くだけでも様々なスキルや専門性を持っている人たちに出会え、容易に、カジュアルに面白い視点が得られる。これは京都ならではだと思います。ソーシャルメディア上でわざわざビジネスミーティングを呼びかけなくても、京都なら「いけばいる」、「友人の友人に聞けばわかる」といった状況があります。

ー多様性を持つ組織こそ創造性を発揮できると言われて久しいですが、京都という都市がそのような機能をもっている、と。

水野さん 
京都には伝統工芸に関与する人もいっぱいいます。土地に根付いた産業があり、それ以外にも数多くの文化がある。東京で例えると、神田、神保町、九段下、湯島あたりを含め、丸ごと「御茶ノ水」みたいなのが京都かな、と。京大や私大に加えて、芸大や美大も多く、このネットワークの中で新規事業が出てきたりする。東京ほど派手ではないけれど、地域の中核として人を惹き寄せる企業もたくさんあり、これらが集積し全体として大きな魅力となっている。必ずしもグローバルに活動している人ばかりではありませんが、国際的にみても競争力の高い個性ある産業や文化、ビジネスを展開している人たちが京都のネットワークには多数存在します。「自分たちでこれまでにない、楽しいことをやりたい」という批評的、実験的な精神に基づく小さな活動は、東京とは大きく違うところだと思いますね。

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