What if I work and
live in Kyoto…

  • INTERVIEW

2023.03.17

創発・循環を生むビジネス拠点としての可能性

家具・家電がレンタルできるサブスクリプションサービス「CLAS」を展開する株式会社クラス。2022年に初の関西エリア拠点として、京都リサーチパーク(以下、KRP)にオフィスを開設されました。KRPは都市型サイエンスパークとして30年以上にわたり、産学公連携によるイノベーション創発の場を展開している一大ビジネス拠点。京都はビジネスを行う上でどんな魅力や可能性があるのか、両社長に語り合っていただきました。
(対談日:2023年2月7日)

KRP10号館のエントランスホールの中央に設置されたアルミ鋳物の装飾パネル前にて。「麻の葉文様」と「四季の草花文様」で構成したデザインにより、京都市内を流れる川と四季の移ろいが表現されている。

株式会社クラス 久保裕丈社長
「京都は本質的な価値や発展を見出していただける場所」

京都リサーチパーク株式会社 門脇あつ子社長
「ご入居者さまの熱意を京都のエコシステムにつなぐ目利き力」

プロフィール

久保 裕丈(くぼ・ひろたけ)
東京大学新領域創成科学研究科修士課程修了。2007年4月、米系のコンサルティング会社A.T.Kearney入社。2012年にミューズコー株式会社を設立し、2015年に売却。その後、個人で数十社の企業顧問を務める。2018年4月に株式会社クラスを設立と同時に代表取締役社長就任。

門脇 あつ子(かどわき・あつこ)
1990年4月、大阪ガス株式会社に入社。2012年にエネルギー技術研究所企画チームマネジャー、2017年に技術戦略部企画チームマネジャー、2018年より情報通信部長を務める。2022年4月、大阪ガス株式会社執行役員就任および、京都リサーチパーク株式会社代表取締役社長に就任。


-はじめに、それぞれの事業内容を教えてください。

久保:当社の事業は一言で「インテリアのサブスクリプション」、正確には「耐久財の循環型プロダクト・アズ・ア・サービス」となります。インテリアの中でもソファやベッドなどの大型家具、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電といった、重くて大きくて高価で取り扱いが面倒な「耐久財」を主に扱っています。サーバーや容量を適時選んで月額で課金されるウェブサービスのように(アズ・ア・サービス)、CLASでは必要な時に必要な物だけを使い、不要になったら解約・返却できる仕組みで、ライフスタイルや環境の変化に合わせたサービスを提供します。返却後は修復、クリーニングして新品のように生まれ変わらせ、次のお客様に回す「循環型」。そうして環境負荷を軽減し、持たない、捨てない社会づくりを目指しています。

門脇:私たちの事業はシンプルに言うと「不動産賃貸業」ですが、「リサーチパーク」ですのでラボがあるのが特徴です。一人部屋から何百人規模まで対応できる賃貸オフィスが400超、100以上のラボスペースを⽤意しています。IT・医療・バイオ・化学関連企業など約500社が⼊居し、6,000⼈の就業者、1,700 ⼈を超える技術・研究者数がいて、⾏政の⽀援機関も⽴地しています。京都からの新ビジネス・新産業の創出に貢献するのがミッションで、オフィスやラボの賃貸だけでなく、年間100以上の様々なイベントや交流会を開催しています。入居企業さまの中には、イノベーションを起こすため、新たな出会いや気づきを求めて、KRP を選んでいただいている方もおられると思います。

クラス様が京都に進出されたきっかけや、KRP に入居された経緯を教えてください。

久保:関西圏の進出にあたって、経済合理性だけで考えると大阪に限るのもあり得ますが、京都でサービスを浸透させたいのは私なりのこだわりがありました。京都には文化があり、カルチャーの発信地で、かつ環境先進都市でもある。我々の目指す「モノを捨てない社会づくり」の実現に賛同いただける仲間を増やすのに、京都市が取り組んでいる「KYOTO CITY OPEN LABO※」(公民連携ラボ)に応募。京都は学生のまちで、卒業時には多くの粗大ゴミが出る。そんな京都市が抱える課題感と、我々のミッションが合致して参画しました。
我々のビジネスはエンジニアが貴重で、ビジネスを支えているのはシステムのインフラ、DXです。京都は学術的で専門性の高い人材が多く輩出されている土地ですので、今後の採用面でも京都に拠点が必要と考えて、こちらも京都市が取り組んでいる「スタートアップによる社会課題解決事業※」に採択され、オフィスを構えました。KRPは京都市からの紹介です。我々は仲間をどう増やしていくかを考える必要があり、KRPが最適な場所ではないかということで入居を決めました。

※1「KYOTO CITY OPEN LABO」:京都市役所の各部署から行政課題等を提示し、民間企業等から課題の解決に資する技術やノウハウ、アイデアなどを募集したうえで、課題提示部署と民間企業等が一緒になって、実証実験や具体的実践等により課題解決に取り組むためのプラットフォーム。
https://open-labo.city.kyoto.lg.jp/

※2「スタートアップによる社会課題解決事業」:革新的な技術や斬新なアイデアで,環境・エネルギー,教育,医療,文化等,あらゆる分野の社会課題解決に寄与する新たな技術の開発やサービスシステムの構築などの事業の実施に係る費用を補助。
https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000297680.html

門脇:京都は「京都議定書」の地でもあり、循環型社会を目指すクラスさまに来ていただけるのは非常にありがたいです。京都市は人口140万以上の大都市ですが、実は人的ネットワークでいうとコンパクトシティで、いろんな人が密接に関わっています。こういう強い意志を持って社会課題に取り組まれる企業さまにとって、KRP(への入居)は合うのではないか、と京都のエコシステムの色々なご縁が重なり、紹介していただきました。京都は新しいことに対して寛容性が⾼く、受け⼊れようとする⾵⼟がありますので、ファーストステージとしてKRP を選んでいただけたのはうれしいです。

KRPの施設の魅力を教えてください。

門脇:オフィス、ラボ、会議場、大小様々なホールがあり、バラエティに富んだ空間があります。イベントや、学会のような大きな会議、オープンイノベーションなどもできて、いろんなものが集約しているのが特徴です。大学や行政が運営するリサーチパークやサイエンスパークはありますが、民間運営の都市型リサーチパークは国内では弊社だけで、世界的にも稀です。創発や新しい発想をするには賑わいが大事なので、敷地内にはカフェやレストラン、書店もあり、この中で一つの「まち」が形取られています。

久保:確かに、ここはまちですね。私も大学院を出て、リサーチセンターなどで共同研究しましたが、リサーチとビジネスが交差するのはすごく難しいと感じました。学術に特化したり、ともすれば閉鎖的になったり、ビジネスの観点が薄くなるので。民間でビジネスとして、ベンチャーの支援も行い、テックが根ざす施設があるのは大事だと思います。

門脇:研究者が大学の外に出て、直接ビジネスマンと話すタイプの産学連携イベントも企画しています。ここで実証実験していただいてもいいわけで、ビジネスとアカデミアの世界が出会える場を意図的に作っています。京都は大学がたくさんあって、声がかけやすく、集まりやすい。人的ネットワークの濃さと、物理的距離感のバランスがとてもいいと思います。 久保:我々との連携では、京都オフィス開設を記念して「キャッチフレーズ&ロゴマーク」の公募を企画し、審査委員にKRPの地域開発部長に参画いただきました。その発想自体がユニークで、市民の方も巻き込んで一緒に共創しながらの仕掛けづくりが上手だなと。KRPスタッフの皆さん自身が楽しんでやってくださっているのを感じます。

創発の場としての KRP の役割についてお聞かせください。

門脇:何十年かけてまちをつくるという観点で、KRPは不動産だと思います。創発、セレンディピティ(偶然の産物)はいろんなことをやるうちに、ある時パッとつながるものなので長い目で見ています。私たちはファンドを持っているわけではありません。しかし今、どんな技術が面白くて、どんな社会課題に熱い人がいて、というのを社員がいろんな所に顔を出しながら肌で感じて、こういうテーマだと、こんな人に集まってもらって、こんな仕掛けをしたら面白いかもしれないと手作り感満載に、誰の真似でもなくやっています。創業から30 年以上も事業が継続できているのは、その思いに対する信頼だと思っていますので、その信頼を裏切らないように、顔が⾒える関係で、地に⾜のついた感覚をもって取り組んでいるのが私たちのイノベーション創発活動の特徴です。

創発の⼀つの例に「HVC KYOTO」という、ライフサイエンス系のアクセラレーション・プログラム(スタートアップの事業拡大や成長を短期間で支援するプログラム)があります。ノーベル⽣理学・医学賞を受賞(2012年)された京都⼤学の⼭中伸弥教授のIPS細胞研究プロジェクトがKRPに入居いただいていたご縁もあり、ライフサイエンス分野に注目した、HVC KYOTOが誕生しました。ライフサイエンス分野の特徴として、いきなりグローバルを狙うマーケットになることを意識して、イベントはすべて英語で⾏っています。登壇するスタートアップとプレゼンテーションを聞く企業は、委託や出資という関係だけでなくパートナー⽬線で⼀緒に事業を育てていく。そのようなコミュニティに賛同してくれる⼈がいるという肌感覚を持って2023年で8 年目を迎え、登壇者の調達資⾦が累計300億円になりました。

久保:8年で累計300億円はすごいです。普通のベンチャーキャピタル(投資会社)だと10年の運用期間で100億円ぐらい。今のお話ですと、シード(起業前)やアーリー(起業したがマネタイズはこれから)のスタートアップに、その機会をつくっているということですよね。

門脇:そうです。300億円はHVC KYOTOの過去の登壇者さまの累計調達金額なので、初めから狙ったことではありません。「こういうことをしたい」とおっしゃっている先生があの大学にいるとか、「あの会社なら賛同してくれるかもしれない」とか、皆さまのそれぞれの熱意をおつなぎして、結果として、登壇者さまのその後の成長やご活躍に現れていると思います。

久保:ベンチャーが一歩目を踏み出すのに、すごく良い土壌だと思います。ベンチャーの場合、最初にMVP(Minimum Valuable Product)といって少人数でもサービスやプロダクトの価値を理解いただけるお客様をつくるのが大事。その声を集めていきながら、サービスをきちんと進化させていく。でも一番難しいのは、そのMVPの立ち上げなんです。そこで互いの興味や課題感がわかるネットワークに入れるとスタートが切りやすくなりますが、東京だとそういうコミュニティにいきなり入り込むのは難しいです。ある意味、属人的なつながりで紹介してもらい、セレンディピティを活用しながら成長する道をたどるのに、東京より京都の方が断然いいと僕は思いますね。

門脇:KRPでは「集まるサービス」といって⼊居者さま向けに、1社では取り組みにくいことをサポートしています。クラスさまのビジネスモデルが素晴らしいので、クラスさまのサービスを「集まるサービス」でご紹介しています。クラスさまは利用する際の優待特典を提供してくださっています。何よりKRP⾃⾝がサステナブルになるためにユーザーになって「モノを捨てない社会づくり」をしていきたいと思います。

KRP地区周辺が「クリエイティブタウン」として注目を浴びていますが、KRPとしても力を入れておられるのでしょうか?

門脇:KRPの近くに卸売市場があって、周辺の梅小路エリアには新たなモノづくりの交流拠点や、アーティストが滞在制作できるギャラリー付きホテルなどがあって地域全体が面白くなってきています。KRPにはディープテック(社会問題を解決する可能性を秘めた科学技術)系のスタートアップの方がラボを探しに来られたこともありましたが、機械を動かすのに音が出せる実験スペースが必要で、梅小路エリアの空き倉庫を紹介したこともありました。そして現在、このエリアを「クリエィティブタウン」にしようと熱い思いを持った人が集まって、「モノづくり」「アート・デザイン」「食」をコンセプトにした新しいまちづくりが進行中です。(株)梅小路まちづくりラボを設立して、そこにKRPも出資、参画しています。2023年3月に文化庁が京都に移転オープンしますが、京都は今、アートとテクノロジーの融合が始まりつつあります。KRPもテックにアートが加わった時に何が起こるのか、双方が出会うきっかけや場をつくることで面白いものが生まれるんじゃないかという期待を持って活動しています。エリア全体でさらなる賑わいが創出されていますので、京都で起業したい方は一度KRPをのぞいていただければと思います。KRPスタッフが、起業の場所に限らず、スタートアップの方が求めるひと、ものを⽬利きして紹介することもできますので。

久保:それは心強いですね。

京都でビジネスする魅力についてお聞かせください。

久保:一つはブランディングの観点。京都市との公民連携をきっかけに、我々の取組に対する行政の注目度が上がっています。環境省の「令和4年度デジタル技術を活用した脱炭素型資源循環ビジネスの効果実証事業(デジタル技術活用効果実証)」にも採択されました。二つ目は、まちがコンパクトで、意思決定も迅速な特徴から、先進的な取組に対してテストマーケティングができるのではと考えています。学生さん向けにプロモーションした時にどうなるか、これからテストマーケティングとして、ぜひやらせていただきたいです。三つ目はネットワーク。KRPでいろんな企業様を紹介いただいているので、もともと思い描いた以上の効果があります。人材採用の面でも、これからネットワークを広げていきたいですね。

門脇:KRPはスタートアップ・エコシステムの架け橋として、スタートアップの方が登壇するいろんな機会を提供しています。起業時には一人用の場所の提供やファーストユーザーの紹介もできて、最初の一歩の敷居を低くしています。また、京都・大阪・神戸にまたがるスタートアップ・エコシステムに関係する行政や商工会議所などの産業界の方とは普段からネットワークを密にしています。

久保:目利きって、すごく難しいと思うんです。本質価値を理解して、それをどう応用するかの発想がいる。テック企業を含む場合は特に難しいので、それができる存在は、なかなかいないと思います。

門脇:常におせっかいな目利きしようとする意思が私たちの強みで、そういう存在でありたいと思って日々活動しています。クラスさまの、物を循環させるビジネスモデルは素晴らしいと思います。ITやアプリを使ったサービスだけでなく、物が実際に回ることにはやはり価値がある。久保社長の初めのお話で、エンジニアがキーだとおっしゃいましたが、京都にはエンジニアがいます。そして伝統工芸の職人がいるのも強み。すると、あの人が修復した物だったら使いたいと付加価値がつく。京都は地産地消といいますか、自分たちで循環を生むことに価値を置く土地ですので、ぜひ、京都でもエコシステムを構築していただけたらと思います。

久保:エンジニア同様、職人も大事です。我々はリペア(修復)のR&D(研究開発)にも取り組んでいます。すると取り扱えるバリエーションが増え、お客様のチョイスが広がる。そこにテクノロジーを交えて、どういう物に、どういう修復をすれば元通りにできるかを全部データベース化しています。京都でリペアまでできるようになれば、(関西圏で業務が)完結できるし、テクノロジーと伝統で価値が増す世界ができるといいかもしれない。ぜひ模索させてください。

これから京都進出を検討される企業様にアドバイスをお願いします。

久保:会社として心がけたのは、拠点に専任者を置いてきちんと体制をつくること。その上で目利きしていただく。自分たちが気づいていない本質的な価値や、それをどう発展させていくのかを、コミュニケーションの中から見出していただける土地柄だと思っています。対して、我々は十分にお返しできていないですが、まずは真摯に向き合う。そしてミッションや、社会的に成し遂げたいことを掲げて、熱く語るのも大事かもしれない。我々は呼吸するように当たり前に語ってきましたが、そこで京都市の課題感とフィットして話が始まった背景があるので。

門脇:クラス様の「家具のサブスク」という発想を聞いて、私たちは(必要な時に必要な場所を使えるという点で)「場所のサブスク」をしているのではないかと思いました。KRPは共用部が大きく、社員の方が快適に過ごせ、他社との接点も持てます。朝、カフェでモーニングを食べながらミーティングし、オフィスに行って仕事、お客さまを呼ぶ時には会議室を借りて、講演会もできるなど、すべてエリア内で完結します。ご入居者さまの増床も多く、KRPの中で成⻑していっていただけるのもうれしく思っています。リサーチパーク内の施設をフル活用いただくことで、バリエーションのある設備を活⽤することで、新しい働き⽅が提案できると思います。

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