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2024.05.29
Kyo-workingトークセッション「エンタメビジネス新時代に京都が欠かせない理由」開催レポート
Kyo-working連続イベントの第4弾「エンタメビジネス新時代に京都が欠かせない理由」が、令和6年2月9日、京都リサーチパーク GOCONCで開催された。ゲーム・アニメ等の分野で活躍する、エンタメ社会学者中山淳雄氏、株式会社ツクリエマネージャー 三輪由美子氏、株式会社グラフィニカ京都スタジオ代表小宮彬広氏、グランディング株式会社取締役吉田謙太郎氏がパネリストとして登壇。モデレーターはNewsPicksビジネスプロデューサー山本雄生氏が務めた。
歴史の必然?エンタメ最高峰の都市・京都
中山氏
京都は、千年にわたってこの国の都として栄え、様々な文化を生み出し、取り入れ、連綿と育んできた。織物、器、町家建築など、日本の衣食住文化の一つの雛形を形作ってきただけでなく、文学や絵画の領域でも、そして現代でも広く親しまれる能や狂言、歌舞伎などの芸能分野でも、その存在感を国内外に示してきた。
一方、京都は印刷の街でもあった。西方より伝来した仏教の経典を刷るために、平安時代から木版の技術が磨かれ、時代が下るにつれ、日本の印刷技術は世界的に見ても極めて高水準に達し、産業として京都の街に根付いた。京都は芸術・芸能をはじめとしたエンタメビジネスの最高峰の地であり、圧倒的な文化の集積地であった。
京都は出版、演劇、映画において多くの作品を生み出しており、クリエイティブ都市として最高峰の地であった歴史をもつ。1900年前後までは、「クリエイティブは京都発」というトレンドが続いていたが、徐々にクリエイティブ産業の中心は東京へ移行していった。
クリエイティブ産業に従事する人材の7~9割は、東京圏が占めており「東高西低」である一方で、クリエイティブ人材の供給源としては、京阪神圏が相当の割合を占めている。特に、京都市は人口では全国の1%程度だが、学生は全国の約5%を占めており、クリエイティブ人材の有力な供給源となっている。
ひとたび、エンタメの展覧会やフェアなどが京都で開催されると、都市イメージもあってか、出資や協賛もこぞって行われ、資金が集めやすい傾向にある。現状、エンタメビジネスは東京圏一強であるが、京都市を始め福岡、北海道などが東京に次ぐ第二・三のクリエイティブ都市になれば、適正な競争が生まれ、日本のエンタメ業界が一層盛り上がるだろう。
古くは宮廷や貴族が支え、京都の町衆が盛り立ててきた文化芸術の発信源も、江戸時代の間に徐々に東へと吸い寄せられていった。職人は武家や有力商人など大口の発注者を頼り、作家、演者など文化芸術の担い手は、そういった資本に紐づいて東に移っていった。
ところが近年、京都市には改めてエンタメ関連の産業に従事する人材が再び集まりつつある。特に2017年頃からは、アニメ・ゲーム産業を中心に新たに京都支社を開設した企業は10社を超え、京都市がエンタメビジネスの拠点として再び注目されるようになってきた。
一体、なぜ再び京都がエンタメ業界内で注目されているのか
ゲーム、WEB、実写映画など、幅広いジャンルの映像を制作している株式会社グラフィニカは、2017年に自社の新たな拠点として京都市を選んだ。株式会社グラフィニカ京都スタジオ代表の小宮彬広氏は、新たな拠点を京都に決めた理由をこう語った。
小宮氏
京都には古くから映画の撮影所があり、なんといってもゲーム大手の任天堂がある。海外から移住してきたインディーゲームのクリエイターたちも京都でモノづくりに向き合っている。映画、ゲーム、アニメの制作に関わる企業も多く、日本国内だけでなく海外からも京都市に進出する人材がいる。
常にクリエイションする仲間がいるという安心感があり京都を選んだ。
吉田氏と小宮氏は、京都の特徴でもある大学・学生の多さが人材確保の点から魅力的であると語る。
吉田氏
ゲームクリエイターは、東京では人材の取り合いになることが多い。実は福岡でも採用競争は苛烈だ。
一方、京都は大学や専門教育機関が多く、学生が人口の約1割と非常に多いため、企業と学生が交流を持つ機会は比較的多い。実際に、大学に訪問して対話をすることで、ゲームクリエイターの卵や関係者とのつながりを得ることができる。
小宮氏
学生を探している時に、京都市をはじめとした行政が積極的に業界側とコミュニケーションを図って、教育機関やその先生たちを紹介してくれる。これが非常に助かる。学校側も大変協力的で、一度つながると、先生たち自身も相性のいい学生を紹介してくれたり、学校での説明会を企画してくれるところもある。
三輪氏と中山氏は、京都ならではの独特な「距離感」についてこう語る。
三輪氏
京都は、行政と企業と学校との距離が近い。実際に物理的に近いので、一日で大学やイベント会場など色々なところを回ることができる。距離感が近いため色々な人材と繋がりやすい。京都のアニメやゲームのイベントには、大学の出展や大学生の参加も多く、企業や大学同士も互いに顔が見えていて、心理的距離も近いのでは。
中山氏
日本のエンタメ業界は、海外と比べると産学がまだまだ一体化していない。日本で一体化している唯一の成功事例は京都。
京都では、2011年にゲーム分野で初めて学術的機関として立命館大学ゲーム研究センターが設立された。伝統的な遊具やおもちゃから、最新のテクノロジーを用いたゲームまで、総合的な研究を行っている。また、ゲーム業界の一体化を進めるために、行政機関やゲームメーカー、クリエイターなど、様々なプレイヤーが研究者とプロジェクトを進めている。
京都では、ゲーム研究センターを中心に、率先して国内外のゲームネットワークを構築し、産学連携が行われている。
京都は新参者に厳しいイメージがあるかもしれないが、ひとたび中に入ると、お互いを手厚く気にかける文化が息づいている。縦・横のつながりが非常に強く、気の合いそうな知人や仕事の相性の良い会社を、数珠つなぎのように紹介し合い、結束して発展しようとする空気があるのかもしれない。
京都がエンタメビジネスの最高峰に返り咲くためには
京都はこれまでも、エンタメ産業都市として様々なイベントを開催している。中でも特筆すべきは、日本最大級のマンガ・アニメ・ゲームのイベントである「京都国際マンガ・アニメフェア (京まふ)」である。2023年の京まふでは、合計で約3万4千人の方が来場。京まふをはじめ、同時期に開催されるサテライトイベントや世界中から集まる同士と交流するために、海外からも多くの人が京都を訪れた。
京都がエンタメビジネスの最高峰に返り咲くためには、エンタメビジネスの大衆化やクリエイター人材の確保のほかに、企業誘致が重要であると中山氏は語る。
中山氏
日本は、海外と比較すると企業誘致に対して消極的である。海外のカナダやシンガポール、マレーシアといった国々では、エンタメ企業を誘致するために、法人税の軽減や人件費の補助などが行われており、実際、私も法人税を軽減するので是非移転してほしいと営業を受けた。全世界で企業や人材の獲得競争が起きている。
しかし、日本では、そういったグローバルな誘致の動きは進んでいない。京都市は、千年の都としての歴史を有し、エンタメの頂点であったことからも、税制の変更やクリエイティブ人材への支援を行えば、誘致が成功し、京都がさらにエンタメビジネス都市として成長できるのではないか。
小宮氏と三輪氏は、京都ブランドを活かした発信や支援といった取り組みが必要であると語る。
小宮氏
Made in Japanだけでなく、Made in Kyotoとして、より発信していくべき。ブランド価値のある京都だから発信できることもある。
また、京都であれば、ビジネスだけでなく豊かな生活との両立も訴求できるのではないか。京都は大都市であると同時に、自然も多く、暮らしを健全に充実させやすい。観光面の魅力だけではなく、そこに住み、実際に暮らすからこそ見えてくる京都の魅力を伝えていくことが必要。
三輪氏
京都で開催されるアニメフェアや周遊イベントなどでは、京都の街並みやお寺などのイメージに合わせて、本来和装とは関係のないキャラクターに着物を着せた描き下ろしビジュアルを作られることが多く、ファンの方々にも喜んでいただいている。このように、京都から連想される日本伝統の文化や衣装とエンタメIPをコラボレーションさせることで、海外からの注目を集める狙いもあるかと思う。
次の10年では、京都で、コンテンツを活用するエンタメビジネスを支援するだけでなく、「コンテンツを作り出す」クリエイターの育成にも力を入れていきたい。
京都ならではのコンパクトシティとしての側面も活かして、ゲームクリエイターとアニメクリエイターなどの交流の機会を作り、エンタメ業界で新たなイノベーションを生み出していく。
京都市では、令和4年度から、クリエイター支援のために「KYO-CCE Lab(コンテンツクリエイション京都エコシステム)」という取組を始めている。
クリエイターの移住・企業の拠点開設の促進や、コンテンツに関わる人・企業・場所などのマッチング支援、クリエイターに必要な技術の習得に繋がるセミナーの実施などに取り組んでおり、クリエイターの街として更に魅力的に進化するための様々なプロジェクトが進行している。
京都は悠久の歴史を持ち、人口の1割が学生であり、行政や大学、事業者同士の距離が近く交流する機会が多いなど、エンタメビジネスが行いやすい土壌が整っている。
エンタメビジネスの最高峰であった京都は、再度日本の中心都市となりうる可能性を秘めている。2023年には文化庁が京都に移転したこともあり、今後、さらに文化都市として注目を浴びていく可能性は高い。京都で、エンタメビジネスを始めてみてはいかがだろう。
プロフィール
中山 淳雄(エンタメ社会学者、Re entertainment代表取締役)
事業家(エンタメ専業の経営コンサルRe entertainment創業)と研究者(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程、慶應義塾大学経済学部非常勤講師、立命館大学ゲーム研究所客員研究員)、記者(Gamebiz記者)、政策アドバイザー(経済産業省「コンテンツIPを中心とした競争力強化に関する研究会」主査)を兼任しながら、コンテンツの海外展開をライフワークとする。
これまで、リクルートやDeNA、デロイトを経て、バンダイナムコスタジオとブシロードで、カナダ・シンガポールにおけるメディアミックスIPプロジェクトを推進し、アニメ・ゲーム・スポーツの海外展開を担当。著書に「エンタメビジネス全史」、「エンタの巨匠」、「推しエコノミー」、「オタク経済圏創世記」など。
三輪 由美子(株式会社ツクリエ 第四インキュベーションカンパニーマネージャー)
海外のCM、テレビ番組制作の日本ロケのコーディネータを経て、映画業界へ。
制作現場、プロデュースの実務を積むかたわら、ユニジャパンにてCreative Market Tokyoなどコンテンツ産業振興やクリエイター支援のイベントの企画・運営に関わる。
平成27年、京都に移住。現在、京都市よりKYO-CCE Labプロジェクト、コンテンツ制作&PR支援業務等を受託。
小宮 彬広(株式会社グラフィニカ グラフィニカ京都スタジオ 代表、RTR開発室室長、技術開発プロジェクト本部長)
昭和59年生まれ。東京でCGデザイナーとして、アニメ、特撮、ゲーム、映画、CMなど、様々なCGを手掛ける。
平成29年、京都支社を立ち上げ、スタジオ代表に就任。令和3年よりUnreal Engine開発をメインとしたRTR開発室の室長を兼任。
アニメでのUnreal Engine活用や、ゲームでのカットシーンワークフロー構築を務める。
令和4年度から、社内技術開発プロジェクトの本部長も兼任。
吉田 謙太郎(グランディング株式会社 取締役 京都スタジオマネージャー)
セガ・エンタープライゼス(現株式会社セガ)において7年間家庭用ゲーム機のゲームソフト開発を行なった後、ソニー・インタラクティブエンタテインメントやマイクロソフトゲームスタジオでのアートディレクターを経て、Q-Gamesではスタジオディレクターとしてゲーム開発に携わる。
平成29年にグランディング京都スタジオをオープン、スタジオマネージャーとしてワールズエンドクラブやHUDERUNなど多くのゲームを手掛けている。
その他、Bit Summit Game Jamの審査員や京都芸術デザイン専門学校の教育編成委員など、京都で開催されるイベントや学校関連の活動も行っている。
山本 雄生(NewsPicks/ビジネスプロデューサー)
関西大学総合情報学部卒。広告代理店を経て、2016年にニューズピックスに参画し、広告事業の立ち上げを行う。
2019年よりビジネス開発部門を経て、2020年より企業の組織カルチャー変革を担う、NextCulture Studio事業を設立。
現在は、三井不動産との共同事業である地域経済創発プロジェクト「POTLUCK YAESU」など企業と協働でプロジェクトプロデュースを行う。