- REPORT
2026.05.12
スタートアップの“新たな潮流を創る” 「FROM KYOTO(フロムキョウト)」イベントDAY2レポート
スタートアップの新たな潮流をつくることを目的に、京都が誇る先駆的なテーマを送るカンファレンス&ネットワーキングイベント「FROM KYOTO」をCIC TOKYOにて2025年12月計6日間開催しました。
DAY2「学生のまちが目指す「唯一無二のアントレプレナーシップ教育」」の様子をお届けします。
登壇者
金澤 奈央 氏(文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域振興課産業連携推進室調査員)
田邊 篤志 氏(洛星中学校・洛星高等学校)
冨田 沙樹 氏(学校法人立命館 産学連携推進本部 起業・事業化推進室 課長補佐)
田里 健太(京都市産業観光局スタートアップ・産学連携推進室主任)
進行
仲田 匡志 氏(株式会社SOU代表取締役/伴走者・株式会社とける CAO)
※所属・肩書は当時のものです

若者のアントレプレナーシップを育む、官民連携の理想像とは?
「考える」と「動く」のバランスをどう保ち、最初の一歩をどう後押しするか。 今、アントレプレナーシップ教育の本質が問われています。
一過性のイベントで終わらせず、学生たちの行動変容を促すための予算や仕組み、そして失敗を許容する文化をどう醸成していくか。
限られた学校のリソースに頼るのではなく、多様な大人が伴走者として混ざり合う。
未来を担う若者の可能性を最大限に引き出すために、大人ができることを問い直します。
自分の「好き」と社会を結びつけていくのがアントレプレナーシップ
仲田 起業すると決まっている人を育てることではなく、「起業する可能性を持つ人を後押しすること」がアントレプレナーシップ教育の本質だと感じています。潜在的な起業家たちが最初の一歩を踏み出すためのきっかけをどのように生み出すか、具体的な方策についてお考えをお聞かせいただけますでしょうか。
田里 京都市では、アントレプレナーシップサークルの運営を通じて、学生一人ひとりの「やりたいこと」を後押しする支援を行っています。その中には、やりたいことが明確に固まっている学生もいれば、「なんとなくこんなことをやってみたい」という段階の学生もいます。後者の学生の中には、とにかく行動力があって、いろいろなことに手を出すのですが、長続きせず途中で頓挫してしまうケースも少なくありません。支援する立場として、そうした学生の可能性をどう広げていくかを考えたときに、「考えること」と「動くこと」のバランスが重要ではないかと感じています。
田邊 私自身は「考える」と「動く」は両輪だと思っています。どちらが欠けても、実行にはつながりません。洛星高校は進学校ということもあり、考えることが得意な生徒は多いのですが、実際に動き出せる生徒は限られているという印象があります。一方で、動ける生徒は本当に驚くほど動きます。自分のビジネスアイデアをチラシにして、近隣の企業に配りに行くような生徒もいます。ただ、そうしたケースはやはり少数派です。だからこそ、私たちの現場では、まず「考える」ところから入りつつ、意識的に「動く」ことに重きを置いています。考えて、動いて、その結果を踏まえてまた考える。その往復を繰り返すことで、両輪が少しずつ回り始める気がしています。
冨田 「やりたい」という気持ちをドライブさせるには、感情が動くことが不可欠です。その感情を動かすのが、最初の「行動」なのではないでしょうか。行動してみて「これは好きだ」「これは違う」と感じる。その後で、どうすればうまく形にできるかを考える。年齢で言えば、幼いほど行動寄りのアプローチが有効だと感じています。小学生は手を動かし、体を動かす中で「好き」を見つけていきます。ただ、大学生であっても行動量が伴っている学生のほうが結果につながっているケースが多いですね。

金澤 今回、ご紹介いただいたアントレプレナーシップ教育は、導入段階で「自分自身を知る」というプロセスが共通して取り入れられていると感じました。自分の「好き」を知ることは、自分を理解することでもあります。その探究は一過性のものではなく、年齢を重ねても続くもの。アントレプレナーシップ教育は、ビジネス教育ではなく、自分の「好き」と社会をどう結びつけていくか、生きがいをどう見つけるかを考える教育だと捉えています。
仲田 まさに「起業家教育」ではなく「起業家精神」だということですね。洛星や立命館で行われているコンテストでも、「好き」を見つけた生徒は違って見えますか。
田邊 全く違います。「好き」を新しく見つけるというより、もともと持っていた関心を再発見し、そこに具体的なやり方や視点が加わる、というケースが多いですね。「好きだけど、この先どうしていいか分からない」という生徒に、それを形にするヒントを渡すことで自ら動き出す。そういう変化を感じます。
冨田 ビジネスコンテストでも、書類を見れば「好きでやっている」のか、「起業がかっこいいと思っているだけ」なのかはすぐに分かります。前者の学生は最後までやり切り、実際に仕事につなげる確率が明らかに高いですね。
仲田 ここまでのお話を聞くと、「好き」という内側の感情を起点に、行動し、考え、また動く。その循環をどう支えるかが重要だと感じます。その中で出てきたのが「コンピテンシー」という考え方です。金澤さん、この点について教えていただけますか。
金澤 行動が長続きしないという課題は、私たちも強く意識しています。文科省では、EUの「アントレコンプ」をベースに、日本で育成すべきコンピテンシーを整理し、「日本版Entre Comp v1ガイド」として整理しました。問いを立てる、情報を探索する、といったコアスキルを教育に組み込み、その結果として子どもたちにどのような行動変容が起きたのかを時間をかけて見ていく。その評価の枠組みづくりに現在取り組んでいるところです。
田邊 当校において行動変容を促すために必要なことのひとつは「活動資金を渡すこと」だと考えています。そうすると生徒は「このお金で何ができるか」を真剣に考え始める。初年度は資金を渡さずに取り組みましたが、もっと良い形がとれるのではないかと思いました。大人が稟議を書いて事業を具体化するのと同じことが生徒にも起きるんです。
冨田 その点でいうと、起業が身近にある環境は大きいですね。経営者を親に持つ子どもは、自然と起業を選択肢に入れています。一方で、そうでない学生は、同じ志向を持つ仲間がいるコミュニティを求めています。「起業するのが当たり前」という空気感がある場所に身を置きたい、という声はよく聞きます。
官・民・地域がつながる支援の設計図
仲田 ここまでの議論で、「考えること」と「動くこと」を往復させるためには、「好き」という内発的な動機に加えて、行動を後押しする環境や予算の存在が重要だという話がありました。ただ、これを一つの学校、あるいは一つの教育機関だけで担うのは正直限界があります。そこで次に考えたいのが、「官民連携によるアントレプレナーシップ教育の支援のあるべき形」です。文科省の金澤さんのもとには、さまざまな事例が集まっていると思いますが、ぜひこれは知っておいてほしいという事例や逆に注意すべき点はありますか。

金澤 例として紹介したいのが、東京都の取組です。東京都では、高校にロールモデルとなる起業家を派遣する事業を行っています。先生方からよく聞くのは、「やってみたいけれど、何から始めたらいいか分からない」という声です。行政がロールモデルを学校に呼ぶ仕組みを用意することで、先生方の心理的・実務的な負担を減らし、最初の一歩を踏み出しやすくしています。一方で注意点としては、官民連携といっても目指す方向性が必ずしも同じとは限らないことです。アントレプレナーシップを重視する事業者もいれば、より実践的な起業教育に重きを置く事業者もいる。お互いの目指す方向性をすり合わせた上で連携することが不可欠だと感じています。
仲田 連携そのものが目的化してはいけない、ということですね。実際の教育現場ではどのような官民連携が行われているのでしょうか。
冨田 アントレプレナーシップ教育は理念的な側面が大きいため、CSRや人材育成の観点を重視している企業との相性が良いと感じています。今年は、村田製作所さんとSTEAM教育に関する連携を発表しました。初等・中等段階から理科や科学への関心を高め、アントレプレナーシップマインドを持った理系人材を地域に増やしていくことを目的としています。小さい頃から育て、その人材が将来、さまざまな分野で活躍していく。その循環をつくろうとしています。
田邊 洛星の生徒の多くは難関大学に進学し、そのまま東京で働き、京都には戻らない。その現状をどう変えるかを考えています。そこで着目したのが京都の伝統産業です。伝統産業の企業をお招きし、春休みに集中講座を企画しています。京都の技術や文化に触れながら、ビジネスとしてどう成り立たせるかを考える機会にしたいと考えています。

仲田 今のお話は、学校と企業をつなぐ「コーディネーター」の役割の重要性を示しています。京都市としては、こうした官民連携をどのように捉えていますか。
田里 京都は担い手不足や観光問題など、さまざまな社会課題を抱えており、アントレプレナーシップ教育をそうした課題と結びつけたいという思いがあります。例えば、京都市立美術工芸高校で行った起業家講演では、現代アートの海外販路の開拓や絵画のサブスクリプションサービスを展開している起業家をお招きしました。美術を学んできた生徒にとって「この道で生きていけるのか」という不安は大きい。その中で、絵を描くこと以外でビジネスを成立させている起業家の話を聞くことで、新たな選択肢が見えてくる。こうした形で、京都の伝統産業や社会課題とアントレプレナーシップ教育を結びつけ、最終的に京都に戻ってきて課題解決に挑む若者が生まれる。その循環が生まれれば、京都市としても非常に意義があると考えています。
子どもたちのアイデアを、教室の中から社会へ
仲田 こうしたさまざまな取組を学校だけで完結させるのは難しく、官・民・地域がそれぞれの役割を持って連携することの重要性が浮かび上がってきましたが、最後に本日の議論を踏まえ、それぞれの立場から今後に向けたメッセージをお願いします。
金澤 官民連携という点で言えば、行政の役割は「つなぐこと」にあるとあらためて感じています。教育機関・産業界・自治体、それぞれが個別に動くのではなく、ネットワークとして機能させる。そのための基盤を整えることが、私たち行政の大きな役割だと思っています。アントレプレナーシップ教育を通じて、子どもたちのアイデアが教室の中から社会へと広がっていく。その変化を現場で目にするたびに、この教育の意義を実感しています。人が入れ替わっても関係性やノウハウが残り、継続していく仕組みを皆さんと一緒につくっていきたいと考えています。

冨田 本日の議論を通じて、アントレプレナーシップ教育は、子どもたちだけのものではないとあらためて感じました。自分を知り、自分の感情を起点に行動し、生き方を考える。そのプロセスは、私たち大人にも重なるものです。身近な大人が、自分の経験や悩みを語ること自体が子どもたちにとっては大きな学びになります。
アントレプレナーシップを特別なものとして教えるのではなく、日常の中で共有していく。そうした関わり方が広がることで、自然と次の世代にマインドが受け継がれていくのではないでしょうか。
田邊 アントレプレナーシップ教育に取り組んで3年目になりますが、率直に言って、とても面白い取組だと感じています。生徒が自分の「好き」を突き詰め、それを形にしようとする姿を見るのは本当に尊く、胸が熱くなることがあります。こうした取組を、できれば日本中の学校で広げていきたい。そのために必要なのは、人とお金、そして関わってくれる大人の存在です。協力の形はさまざまで構いません。未来ある若者のために、ぜひ多くの方に関わっていただければと思っています。
田里 立命館さんや洛星さんのように、すでに現場で取り組まれている皆さんと連携しながら、京都市としてもアントレプレナーシップの機運を高めていきたいですね。
