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2026.05.12

スタートアップの“新たな潮流を創る” 「FROM KYOTO(フロムキョウト)」イベントDAY4レポート

スタートアップの新たな潮流をつくることを目的に、京都が誇る先駆的なテーマを送るカンファレンス&ネットワーキングイベント「FROM KYOTO」をCIC TOKYOにて2025年12月計6日間開催しました。
DAY4「京都から考える、新しい創造の風土~里山に学ぶスタートアップのかたち~」の様子をお届けします。

登壇者

髙室 幸子 氏(一般社団法人パースペクティブ代表理事)
宮本 瑞基 氏(合同会社なわな 代表)

進行

南部 隆一 氏(株式会社ACTANT CEO・デザインディレクター)
森岡 環(京都市産業観光局スタートアップ・産学連携推進室 スタートアップ支援担当部長)

※所属・肩書は当時のものです

右から宮本氏、髙室氏、南部氏、森岡。

都市と里山を繋ぐ、持続可能な未来への道筋とは

京都の中山間地域・京北は、豊かな自然環境と文化が息づく里山です。近年、この地に惹かれ、拠点を構えるクリエイティブな人々が活動の輪を広げています。
なぜ都市から離れた場所で、新たな事業やアイデアが生まれるのか。そこには、暮らしと密接に結びついた技術や、自然との持続的な関係から育まれる独自の価値観があります。
本対談では、複雑に絡み合う里山の課題に対し、システミックデザインの視点を取り入れながら、里山とテクノロジーがどのように共存し、地域特有の課題をどう乗り越えながらビジネスを発展させるのかを探ります。また、単一の解決策に留まらず、「流域」を視野に入れた「つながり」の創出、循環する資源、人と人との関係性を再構築する視点から、新しいスタートアップのかたちを紐解きます。

森岡 メインテーマに入る前に、株式会社ACTANT CEO・デザインディレクターの南部さんから、システミックデザインの考え方や実践例についての説明をお願いします。

南部 地域や社会課題に貢献するデザインコンサルティングやプロジェクトを展開しています。
昨今重要視されている、解決が困難で常に変化する「厄介な課題」は、これまでのデザインアプローチでは対応できないと考えています。新しい武器として、「デザイン思考」と「システム思考」を融合させた「システミックデザイン」が注目されている。これは、複雑な問題を多角的に捉え、エコシステム全体を好転させる「ツボ」を見つけ、小さな変化を積み重ねることで、長期的な視点から社会変革をデザインする手法です。
実践例として、「森のための地域通貨」としてボランティアで行われがちな森のケア活動にインセンティブを持たせ、活動を活性化させるためのデジタル地域通貨を開発しているところです。
この仕組みを活用し、コミュニティ間の交流促進や、森に関わる人々(関係人口)を増やし、地域活性化につなげることを構想しています。短期的な利益追求ではなく、長期的な視点で地域の魅力を高める「迂回する経済」の理論に基づいています。京北地域との連携も視野に入れています。
もう一つ話題提供として、都市から離れた地域がイノベーションの拠点となる「スマートビレッジ」の考え方があります。小さなコミュニティだからこそ、多様な人材が自発的に参加し、スモールスタートで迅速な実験や技術導入、展開が可能であるのではないかという考え方です。
京北地域のような自然に囲まれた地域は、スマートビレッジの実験を行うのに理想的なフィールドであると考えられます。厄介な課題に対して、探索的にアプローチできる環境は、新しい価値を生み出す可能性を秘めており、システムデザイン的な観点からも非常に有望であるのではないかと考えています。

里山とテクノロジー

森岡 南部さんから、システミックデザインの考え方をベースにした「スマートビレッジ」の視点をいただきました。まず、里山とテクノロジーの関係性について、話を深めていきたいと思います。

南部 京都や京北には、土着のテクノロジーともいえる長きにわたり培われた伝統工芸が残っていると思います。そこをきちんと尊重しながらも、お二人は、デジタル技術といった新しいテクノロジーにも向き合っていますね。テクノロジーをどのように捉え、可能性を見出していますか?

宮本 私が京北で狩猟や獣害対策を通じて里山の課題に取り組む中で、最初から大規模なテクノロジー導入は考えていませんでした。ここでは、技術の「新しさ」よりも「暮らしの延長線上にあるか」が重要だと感じます。例えば、地域のお年寄りでもスマートフォンを使いこなすように、生活に自然に溶け込む技術なら受け入れられる余地はあります。
ただ、山間部での活動には通信環境や電波の問題が大きな制約となり、個人の工夫だけでは解決できない壁がある。ここにはインフラ事業者や大きな資本との連携も必要でしょう。しかし、資本や技術が前面に出すぎると、現場の判断や地域のリズムを壊しかねない。この距離感をどう保つか、今まさに模索中です。

髙室 私は素材と環境の関係性に強く関心があり、京北の単一的な杉林で建築材を生産し続けることが持続可能か疑問を抱いています。そこで取り組んでいるのが「上流からものづくりを考える」実験です。これまでの素材産業は市場ありきでしたが、森や素材の側から発想することで、どのようなものづくりが可能になるのかを探っています。

南部 素材の上流からものづくりを捉え直す中で、テクノロジーを活用するということですね。

髙室 多様な素材を活かす上で、テクノロジーの役割は大きいと考えています。森林の一本一本異なる木の特性をデジタルで可視化できれば、「この木は、この建築に最適だ」といったマッチングが可能です。
また、コミュニティの可視化という点でもテクノロジーに可能性を感じます。例えば、米作りでは、都市の人々がコミュニティとして農作業に参加する関係性を、デジタルな仕組みで支える試みが始まっています。通貨やデータで関与度が見える化し、新たな循環が生まれています。

南部 なるほど、興味深いですね。宮本さんが提唱する「鹿オリエンテッド」の視点からはいかがでしょうか?

宮本 鹿オリエンテッドは、鹿を単なる駆除対象ではなく、森の状態や人の営み、地域の知恵との関係性で捉え直す考え方です。この視点からは、高度な自動化ではなく、地域コミュニティやインフラと無理なく繋がるハイブリッドな設計が求められます。セルフビルドの小屋づくりがその感覚に近い。効率は悪くても、試行錯誤で経験が積み重なる。技術的にはもっと簡単な方法もあるけれど、重要なのは、技術を「使うかどうかを選べる状態」が保たれていること。使えば楽になるが、使わなくても営みは成り立ち、経験の価値も失われない。この関係性は、鹿との向き合い方にも当てはまると考えています。

里山スタートアップをデザインする

森岡 里山とテクノロジーを掛け合わせていくという点は、京北以外の地域でも応用可能な論点かと感じました。続いてはより広い観点から、京北や里山だからこそ生まれうるビジネスの可能性や価値の創造についてお聞かせください。

宮本 狩猟に参加する人は、助産師、学生、会社員など様々。京北で狩猟を始めて、里山にはすでに多様な人が関わる土壌があることを強く感じます。
ビジネスとしては狩猟単体で成立させるのは難しい。ただ、里山に人が関わること自体が価値になる場面は確実に存在します。例えば、稲刈りや祭りへの参加。ここには「労働力」とは違う価値がある。この「関わること自体が価値になる」状態をどう設計するかが、里山発スタートアップの重要なポイントです。

髙室 私が「流域」を強調するのは、京北が単独で完結しない場所だからです。流域を通じて下流域である京都市中心部と繋がり、人や文化が行き交って初めて成り立ちます。
だから、スタートアップも京北内だけで完結する必要はありません。むしろ、都市と里山の人々との循環をどう設計するかが、京北ならではのビジネスにつながるのではないでしょうか。
もう一つは、里山に人の身体知が色濃く残っている点です。伝統工芸には、長い時間をかけて培われた人の手と感覚による知恵があります。AIが普及し誰もが同じ技術を使える時代だからこそ、人間にしか担えない領域はどこか。この問いに向き合うこと自体が、これからのスタートアップの重要なテーマになるはずです。

南部 私が運営する「コモリス」も、都市に木を植えるだけではなく、自然との関わりを通じて人の行動や価値観がどう変わるか、都市での自然体験をどう設計するかがテーマです。皆さんと同じ方向を目指していると感じますね。
本日の議論を通じて「里山スタートアップ」の輪郭が見えてきたように思います。従来のスタートアップは上場や急成長を前提としがちですが、厄介な課題に向き合うには、その定義や目標自体を見直す必要があります。
鍵は「つながり」です。技術やビジネスを課題の単純な解決のためだけでなく、自然や人とのつながりを支えるためにどう使うか。その視点に立つことで、里山スタートアップの新しいあり方が見えてくるのではないかと感じました。

楽しんで取り組む、その姿勢が次の可能性を開く

森岡 サステナビリティが世界共通のテーマとなる中で、ビジネスをどう構想し、里山というフィールドで身体知を含めた関係性をどう捉えるのか。今日の議論は、その問いへの重要な視点を示してくれました。最後に、里山とスタートアップ、そしてビジネスの持続可能性という観点から、お二人の今後の展望をお聞かせください。

宮本 まだ試行錯誤の連続ですが、今日の議論で、自分が向き合うテーマの輪郭が立体的に見えてきました。鹿の問題一つとっても、単なる個体数の話では終わりません。鹿の食性から森の植生、人の手入れの歴史に至る因果関係があります。例えば、成長の早い樹種を植え続けた結果、鹿が食べる柔らかい苗木が増える。
今取り組む活動を粘り強く続ける中で、将来は狩猟や獣害対策にとどまらず、森の手入れそのものにも関われるようなつながりをつくりたい。鹿を起点に、森と人との関係を組み直すプロセス自体が、里山における持続的な関わり方になるのではないかと思います。

髙室 私は米づくりを軸にした取組を広げたいです。森は多くの人にとって距離がある一方、田んぼで起きることは森と同じ本質的な構造を持ちます。令和の米騒動問題では、米という身近な食料の裏にインフラ維持や労働力、気候変動が複雑に絡むことが可視化されました。米という分かりやすい入口を切り口に、構造全体に目を向ける取組をこれからも続けます。

南部 お二人の話から強く感じたのは、「課題解決」の義務感よりも、まず楽しんで取り組んでいるということです。自然の循環の中に身を置くことで、自身もその一部である実感を得る。その感覚が次の発想に繋がるのだと思います。
鹿や森林、米の問題は、森の手入れ、水環境改善、食や流通など、関係要素が非常に多い。一見「全てやらなければ」と思いがちですが、一つひとつ面白がりながら積み上げることで新しい可能性が見えます。一気にスケールさせるのではなく、深く掘り下げたものが結果的に広がる。そのような成長こそが、里山スタートアップの一つのあり方ではないかと感じました。

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