- REPORT
2026.05.12
スタートアップの“新たな潮流を創る” 「FROM KYOTO(フロムキョウト)」イベントDAY1レポート
スタートアップの新たな潮流をつくることを目的に、京都が誇る先駆的なテーマを送るカンファレンス&ネットワーキングイベント「FROM KYOTO」をCIC TOKYOにて2025年12月計6日間開催しました。
DAY1「京都が目指す“豊かな脱炭素社会”」の様子をお届けします。
登壇者
大谷 彰悟 氏(株式会社OOYOO 代表取締役)
武田 秀太郎 氏(京都フュージョニアリング株式会社共同創業者・チーフストラテジスト/慶應義塾大学 准教授)
若宮 淳志 氏(株式会社エネコートテクノロジーズ 共同創業者・最高技術顧問/京都大学化学研究所 教授)
進行
平尾 一之 氏(京都市成長産業創造センター センター長/京都大学 名誉教授)
安田春香(京都市産業観光局スタートアップ・産学連携推進室)
※所属・肩書は当時のものです

これからの時代に環境のために京都からできることは
フュージョンエネルギー、ペロブスカイト、CO2分離膜——。
世界が切望するブレイクスルーは、なぜ京都から生まれるのでしょうか?
京都発の起業家が共通して語るのは、京都の「おもろい」気風や、困難な挑戦をも「やってみたらええやないか」と背中を押す懐の深さ。
伝統と革新が共存する京都だからこそできること、提供できる価値。
最先端技術で世界をリードする京都のディープテック企業が、“豊かな脱炭素社会”の実現に向けた、壮大なビジョンを語ります。
京都発ディープテック企業の未来と挑戦
平尾 本日登壇の3社は、”豊かな脱炭素社会”というテーマに最もふさわしい方々です。最初のテーマとして、各社の今後の展望やそのために超えていかないといけない課題についてお話しいただければと思います。
武田 京都フュージョニアリングは、核融合関連の装置を開発し、海外に輸出するビジネスを進めてきました。この事業は現在非常に順調で、売上規模も世界のフュージョン系スタートアップの中では例のないレベルまで来ています。このまま装置を売り続ければ、近い将来の黒字化も十分に見えています。ただ、それで本当に良いのか?という議論は社内でもずっと続けてきました。世界中がフュージョン発電の実現に向けて挑戦している中で、私たちだけが「部品売り」で終わってよいのか。
そこで私たちは新たな挑戦として、私たち自身がフュージョン発電所の建設に参入することを発表しました。発電所建設には、5,000億円〜7,000億円規模と巨額の資金調達が必要になります。目標の2035年までに実現するには、資金調達、仲間集め、そして超巨大プロジェクトをやり切る体制づくりが不可欠です。IPOの時期も含め、極めて難易度の高い経営判断に今後取り組んでいきます。
若宮 エネコートテクノロジーズは、京都大学で培ってきた材料化学の研究を基盤に、次世代太陽電池であるペロブスカイト太陽電池の社会実装に取り組んでいます。ペロブスカイト太陽電池は、薄く、軽く、曲げられるという特性を持ち、低照度でも発電できる点が大きな強みです。また軽いというのはコスト低減にもつながることが大きな魅力です。
現在、研究成果を研究室の中にとどめるのではなく、実際に使われるエネルギー技術として世の中に届けることを目標に量産と事業化を進めています。量産には、「大面積」「再現性」「歩留まり」が重要です。特に、変換効率に関して、現状15〜16%程度の変換効率を18%、20%と引き上げていく必要があります。その数%の差を詰めるところに、製造技術としての難しさがあり、現在取り組んでいるところです。
また、耐久性も課題です。屋外で紫外線にさらされる環境はフィルム型太陽電池にとって非常に厳しいことから、私たちはまず屋内用途から展開を進めています。水に弱いという課題もありますが、塗布技術と封止技術という日本の優れた技術と組み合わせ、2027年の量産化実現を本気で狙っています。
大谷 OOYOOは、二酸化炭素だけを高効率かつ選択的に透過させる「分離膜」技術を開発するスタートアップです。私自身は総合商社で電力事業に長く携わってきましたが、その経験を通じて、脱炭素の議論において「CO2をどう減らすか」だけでなく「どう現実的に実装するか」が重要だと感じてきました。CCUS(CO2回収・利用・貯留)の中でも、最もコストがかかる回収工程に焦点を当て、熱を使わない膜分離によって、小さく、安く、現場に導入できる技術を目指しています。
最も大きな課題が、CO2を「取った後どうするのか」というものです。ドライアイスや植物工場(植物への成長促進)などの用途はありますが、排気ガス由来のCO2は量が桁違いであり、それをさばけるだけの用途が、まだ社会に十分に存在していません。結果として、既存の石油化学製品に価格で太刀打ちできない。この構造は、私たち一社では解決できない、業界全体の課題だと思っています。
技術面でも耐久性などの課題もありますが、私たちは、今の完成度が60点だとしても、市場に出すことを決めています。完璧を待つのではなく、市場の声を聞きながら育てていく。そこに挑戦したいと考えています。

脱炭素を「制約」ではなく「成長の機会」に
安田 最終的な到達点としてどのような「脱炭素社会」を理想とされていますか。テーマである「脱炭素社会」について、あらためてお考えをお聞かせください。
武田 一般的に、脱炭素は経済成長を抑制するといわれてきました。しかし、エネルギーと炭素、さらには資源を切り離す「デカップリング」が実現すれば、その前提そのものが覆ります。その根本的なデカップリングを可能にする技術こそが、フュージョンエネルギーだと私は考えています。
フュージョンエネルギーが実用化されれば、エネルギー不足による飢餓や紛争を減らし、脱炭素を「制約」ではなく「成長の機会」に変えることができる。もちろん、その先には人類の欲望をどう制御するのか、といった新たな課題も生まれますが、まずは今の負のスパイラルである人口増加、エネルギー消費拡大、環境破壊を断ち切ること。それが、私たちが目指す脱炭素社会の目標でありビジョンだと思っています。
若宮 「脱炭素」という言葉にずっと違和感を覚えてきました。炭素は生命の根幹であり、二酸化炭素は悪者ではありません。問題は、化石燃料に依存した社会構造がもはや持続可能ではないという点にあるはずです。重要なのは、文明や産業のあり方そのものを見直すこと。
太陽電池やフュージョンエネルギーのような無尽蔵に近いエネルギー源を使い、化石燃料への依存から脱却する。その転換こそが本質だと思っています。化石燃料を大量に使う文明は地球の歴史から見ればほんの一瞬です。私たちの世代だけがその恩恵を享受し、将来世代にツケを回すわけにはいかない。
再生可能エネルギーを社会の基盤にすることで、エネルギー資源問題を解決し、結果として紛争や格差を減らす。それが、私の描く理想の脱炭素社会です。

大谷 お二人のお話を聞いていて思うのは、脱炭素社会には一つの正解があるわけではないということです。核融合、再生可能エネルギー、そして私たちが取り組むCO2回収。それぞれの技術が補完し合う「ミックス」で成り立つ社会が現実的だと思っています。
OOYOOは、小規模・中規模の排出源に寄り添いながら少しずつ脱炭素を進めていく立場です。資金に余裕のない事業者にとって脱炭素は大きな負担になりがちです。そうした現場に無理なく導入できる技術を届けることで、「脱炭素は特別なことではない」という空気を広げていきたい。最終的には、明日の天気や将来の環境を過度に心配しなくてもよい社会をつくること。そのために、それぞれの技術が得意な領域で力を発揮し、段階的に社会を変えていく。
そうした積み重ねが、現実的で持続可能な脱炭素社会につながるのではないかと考えています。
ディープテックを育てる京都のポテンシャル
安田 皆さまのお話から、脱炭素社会の実現には技術だけでなく、それを育む土壌も重要だと感じました。皆さまはいずれも京都で創業し、京都を拠点に事業を成長させてこられました。改めて「京都という地」を選んだメリットや、このまちのポテンシャルについてお聞かせください。
武田 一言で言うと、京都は「おもろい土地」です。東京とは明らかに空気が違います。突拍子もない話をしても「おもろいやないか」で受け止めてくれる風土だと思います。これは、実はスタートアップにとって非常に重要なことです。
私たちが「フュージョンでスタートアップをやる」と言ったときも、簡単に受け入れられたわけではありません。しかし、最終的には「やってみたらええやないか」と背中を押してもらえました。他の地域だったら許されなかったかもしれない挑戦が、京都では成立する。その懐の深さは、京都大学という存在、そしてこのまちの文化そのものだと思います。
さらに、行政の支援も非常に大きいといえます。行政が「面白い挑戦を応援する」という姿勢を明確に持っていることは起業家にとって大きな安心感につながります。フュージョンエネルギーのような、時間も資金もかかる挑戦を続けられるのは、こうした環境があるからこそだと感じています。

若宮 京都は、ものづくりとディープテックの土壌が非常に豊かなまちです。島津製作所、堀場製作所、京セラ、村田製作所、ローム、オムロン、任天堂—今では世界的な企業ですが、その多くはもともとスタートアップだったわけです。そうした企業が育ってきた歴史そのものが京都の文化だと思います。
大学の存在も大きい。京都大学は、長い間「自由な学問の場」であり続けてきました。過去に京都大学はディープテック・スタートアップ不毛の地だと言われた時代もありました。それでも実例を積み重ねてきたことで、今では次々と後に続くスタートアップが生まれています。他とは違う、京都大学ならではのユニークさ。その背景には、京都というまちが育んできた自由闊達な雰囲気があると思います。私たち自身が一つのロールモデルとなり、次の世代が「京都から世界へ」挑戦する流れをさらに加速させていきたいと考えています。
大谷 京都は、行政や金融機関、ベンチャーキャピタルまで含めて、スタートアップに対する感度が非常に高い。エコシステムがかなり整ってきていると感じます。
もう一つ大きいのは人材です。スタートアップが成長するには優秀な人材を集めることが不可欠ですが、京都には国際的なブランド力があります。外国人研究者やエンジニアの中には「京都に住みたい」「京都で働きたい」という理由で集まってくる人も多くいます。私たちのチームも国際色豊かですが、京都という場所がその後押しになっているのは間違いありません。技術、大学、企業、行政、そして人材。これらがコンパクトなエリアに凝縮されているのが京都の強みです。この地の利を生かしながら、京都に根を張り、世界を相手に事業を大きくしていく。その可能性は、まだまだ広がっていると感じています。
平尾 皆さんの興味深いお話大変ありがとうございました。京都は大学、学生のまちで、人口に対する学生数の比率が日本で最も高く、京都大学をはじめ個性ある多様な大学が立地しています。大学に加え、伝統的な大企業も多く集積しています。
最近、京都から強力にグローバル展開をしている企業はあまり多く出て来ていません。本日のお三方のお話を聞いて、京都の産業の未来は非常に明るいなと改めて感じました。皆さんの今後の活躍に期待しています。
