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2024.03.18

公益財団法人 京都高度技術研究所(ASTEM)~前途有望なベンチャー企業を発掘・育成して支援~

京都高度技術研究所(以下、ASTEM)は、次代の京都経済を担う企業の成長・発展を支援する公的な産業支援機関です。ICT、ライフサイエンス、環境等の分野で産学公連携による研究開発や事業化を推進するとともに、ベンチャー・中小企業に対するさまざまなサポートを行っています。
今回、ASTEMが提供するベンチャー・中小企業支援について、地域産業活性化本部長の孝本浩基氏にお話を伺いました。(取材日:2023年11月1日)

プロフィール

孝本 浩基(こうもと ひろき)

1962年生まれ。大学卒業後、塾経営を経て、京都で起業家やMOT(Management of Technology) 人材の育成などに携わる。2005年に京都高度技術研究所に入所。ベンチャー・中小企業の成長を支援する職に就き、現在に至る。2020年度からは、京都工芸繊維大学の非常勤講師として「事業企画論」を担当し、次代を担う人材育成にも取り組んでいる。


ASTEM(アステム)とは

-はじめに、ASTEMについて教えてください。

元々は、大企業と中小企業の情報格差を埋めることを目的に、情報系の研究所として1988年に開設しました。1998年に、国のベンチャー支援政策の動きに合わせ、市域の中核的支援機関に位置づけられ、京都商工会議所など市内の支援機関と連携し、京都市内のベンチャー創出・支援に携わるようになりました。その後、2010年に京都市中小企業支援センターを統合し、現在ではベンチャー企業から中小企業まで幅広く支援しています。

-他の産業支援機関との違いを教えてください。

一番の特徴は、大学の研究者とのつながりを活かした産業支援ができることです。これまでASTEMでは、国と連携してナノテクノロジーやライフサイエンス・バイオ分野の研究開発・社会実装の支援に取り組んできました。このため、市内の理工系学部がある大学との関わりが強く、情報系に加え、化学、機械、電気、医学、薬学など、幅広い科学技術分野の研究者と深いつながりをもっています。こうした大学が36もあるという京都の強み、大学の知を活かした医工連携・薬工連携などの産学公連携をはじめ、ものづくり系やテック系ベンチャーに対する支援が特徴です。

-ベンチャー企業であれば、誰でも支援を受けることができるのでしょうか。

ASTEMでは、独自の認定制度を設けており、認定企業を中心に専門的な支援を展開しています。主な認定制度としては、京都経済をリードするベンチャー企業の発掘・育成を目的に、経営者の資質や事業プランの新規性、技術力や実現可能性などを評価する「京都市ベンチャー企業目利き委員会」(以下、目利き委員会)によるAランク認定があります。

Aランク認定企業に対する手厚い支援

-京都市外の企業でもAランク認定を受けることはできるのでしょうか。

はい、Aランク認定については、全国どこに拠点を置いていても要件(※)に該当すれば申請いただけます。
※ 新しい事業への挑戦を考えており、これから創業、または企業設立後(開業を含む)概ね10年未満の個人、ベンチャー・中小企業(みなし大企業を除く)が対象。全国から受け付けており、新規性が高ければ、業種・業態は問わない。

-Aランク認定されると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

Aランク認定企業に対する支援は、大きく3つあります。

1つ目は、専任のコーディネーターによる伴走支援です。コーディネーターが認定企業との定期的な面談を通じて、抱えている課題を把握し、販路開拓や他社とのマッチングなど、きめ細かく事業展開をサポートします。
特に販路開拓は、ベンチャー企業が苦労するポイントです。ASTEMでは、グローバル展開する大企業のニーズを紹介し、ベンチャー等の優れた技術とのマッチングを図る「オープンイノベーションカンファレンス」を年3回程度開催しています。最近では、ローム株式会社やアサヒ飲料株式会社といった大企業にご協力いただいております。
このカンファレンスは、大企業側から具体的な技術ニーズを紹介した後、個別に提案を募る、という事業です。提案自体は参加者が自己の責任において交渉を行うもので、商談や契約の成立等を保証するものではありませんが、その成立を少しでも後押しするため、コーディネーターが提案内容に関してアドバイスをしたり、採択後の事業化に至るまでの進捗管理など、認定企業をフォローアップしていきます。

2つ目は、専門家の派遣です。士業のコンサルティングをイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。例えば、“大企業との契約締結にあたり、契約書の文面を弁護士にチェックしてもらいたい”、“会社の成長ステージに合わせて経営体制を整えるにあたり社会保険労務士の先生に相談したい”、などといった場合に、士業の専門家を紹介・派遣しています。

3つ目は、「京都市ベンチャー購買新商品認定制度」の活用です。新しい商品・サービスは、最初、実績がないとなかなか売れないというハードルがあります。認定企業であれば、この制度を活用し、自社の優れた新商品について、一定の要件(※1)を満たせば、京都市の随意契約の対象となる「新商品または新役務」として認定され、行政相手ではありますが、実績を作る機会を得ることができます。

このほかにも、ベンチャーキャピタルや金融機関と連携した資金調達に関する個別相談や、市内の公的インキュベーション施設(※2)に入居する際の賃料補助の加算、ニッチな分野で国内シェアを大きく獲得している企業の更なる展開を支援する「京都型グローバル・ニッチ・トップ企業育成補助金」など、認定企業の成長段階やニーズに応じた支援を幅広く展開しています。

※1 独自性、優位性、市の機関での活用見込みなど、別途定める基準に基づき審査
※2 工学系がメインの「京大桂ベンチャープラザ北館・南館」とライフサイエンス系がメインの「クリエイション・コア京都御車」があり、ASTEMがインキュベーションマネージャー(支援人材)を設置

-Aランク認定に向けた申請から認定を受けるまでの流れを教えてください。

目利き委員会による審査は年1回で、全国から事業プランを公募しています。毎年9月に申請締切、12月頃に書面による一次審査、3月頃に目利き委員会(最終審査)、という流れです。
ASTEMにご相談いただければ、申請の段階から、コーディネーターが事業プランのブラッシュアップをお手伝いします。市外の方でもオンラインで対応可能です。
一次審査を通過した事業プランについては、技術面や事業性について調査が行われます。技術面に関してはその分野の研究者が、事業性に関しては中小企業診断士が評価します。その評価をベースに、目利き委員会による最終審査会が開かれ、申請者によるプレゼンと質疑応答を経て認定(A~Cの3段階)を行います。
Aランク認定自体は市外に拠点を構えていても受けることができますが、認定後に受けることのできるASTEMの様々な支援については、市内に拠点を構えていることが条件となります。市内への拠点設置にあたり、ASTEMでは、オフィスであればASTEMが入居するビルの8階にあるシェアオフィス「STC3」、研究開発拠点であれば京都市成長産業創造センター(ACT京都)(※)をご用意しておりますので、是非活用ください。

※ レンタルオフィス・ラボを提供しており、入居企業間や入居企業と大学・研究機関との交流機能を持つ、産学公連携による化学分野の研究開発拠点。

躍進するAランク認定企業

-大きく成長を遂げたAランク認定企業の事例を教えてください。

株式会社ファーマフーズは、2004年に「鶏卵が持つ特異的抗体の高活性化によるピロリ菌抑制技術の開発及び食品応用」をテーマとした事業がAランク認定を受けました。開発した卵黄ペプチド「ボーンペップ」の技術等を軸に、バイオ技術を駆使した機能性素材や健康食品を提供しており、順調に事業を拡大しています。最近では、「薬用育毛剤ニューモ」が爆発的にヒットし、売上高は数百億円前後と、ここ数年で数倍に伸びています。

また、株式会社バイオームは、2019年に「生物データベースによる生物多様性市場の創出」をテーマとした事業がAランク認定を受け、現在、いきものコレクションアプリ「Biome(バイオーム)」を展開しています。SDGsの観点でも注目度が高く、様々な大企業から声がかかりコラボレーションが生まれています。潜在力の高いインパクトスタートアップのロールモデルとして経済産業省から「J-Startup Impact」に選定されたことに加え、大阪・関西万博では、河森正治プロデューサーのパビリオン「いのちめぐる冒険」にサプライヤー協賛するなど、非常に伸びしろのある企業だと思います。

他都市から京都に進出した事例として、株式会社すららネットがあります。2013年に「対話型アニメーション教材『すらら』におけるソーシャル機能開発プロジェクト」をテーマとした事業がAランク認定を受けました。開発した「すらら」は、先生役のアニメーションキャラクターと一緒に、一人ひとりの理解度に合わせて進めることができるアダプティブなICT教材として様々な賞を受賞しており、全国の学習塾や学校にとどまらず、スリランカ、インドネシア、インドなど海外へも展開しています。

ASTEMのコワーキングスペース

-Aランク認定企業は現在何社ですか。また、成長して上場したケースはありますか。

Aランク認定された事業は、全部で157件あり、Aランク認定企業のうち7社が上場を果たしています(令和5年3月末時点)。ベンチャー企業は起業してから10年後の生存率が3割以下とよく言われますが、Aランク認定の場合は事業プランをしっかり評価しているので、認定後に事業を休眠・休止したケースは2割もありません。

認定制度以外にも様々な支援

-Aランク認定以外にも、市外の企業が活用できる支援はあるのでしょうか。

「スタートアップによる社会課題解決事業」では、環境・エネルギー、教育、医療、文化等、あらゆる分野の社会課題の解決に挑戦するスタートアップを対象に、活動経費の一部を補助しています。
京阪神のスタートアップ・エコシステムが国の「グローバル拠点都市」に選定されたことを契機に始まった事業の1つで、例年、4~5月に募集し、6月末に採択が決まります。市外に拠点を置くスタートアップの方でも申込が可能ですが、申請時点で市内に拠点がない場合は、10月までに京都市内に事業拠点を設け、法人登記することが補助対象の要件としていますので、採択された場合、Aランク認定同様、STC3やACT京都など、ASTEMでご用意しているシェアオフィス・研究開発拠点をご活用いただければと思います。

京都市外のスタートアップで、採択をきっかけに京都に進出した事例はありますか。

株式会社ハタプロは、「AI ロボットを活用した高齢者のフレイル・口腔ケアプログラム」が2020年に採択され、東京から京都に本社を移して事業活動を展開しています。元々、関西への拠点設置を念頭に応募されましたが、京都との関わりが増えるにつれ、支援が手厚いと実感したことや、深く関係を築けたことなどを理由に、京都に本社ごと移ってきたそうです。
同社に対しては、採択後、補助金の他にマッチング支援を行いました。他都市から来た企業にとって、土地勘がない地域の医療機関等とコンタクトを取るのは難しい中、相談を受け、ASTEMがライフサイエンス関係のネットワークを活かして京都市内の大手の病院を紹介し、開発しているプログラムの検証などが可能となりました。

-同じ京都リサーチパーク地区内に京都市産業技術研究所がありますが、支援するうえで何か連携はされているのでしょうか。

京都市産業技術研究所(以下、産技研(※))は、着物や金属加工など地場産業の技術を得意としており、10の研究チームが染織技術や高分子、金属、窯業、バイオ、デザインなど、多岐に渡る分野の研究や企業の技術支援を行っています。
得意分野が異なるASTEMと産技研は、非常に近い距離に立地しているため、日頃から双方の職員が顔を合わせ、情報交換する関係にあります。ASTEMのコーディネーターが企業から相談を受けて、産技研のリソースを活かせそうな場合、そのまま企業を連れて産技研に行って産技研の職員と一緒に相談、ということはよくあります。また、産技研内には様々な高度研究機器を揃えた「京都バイオ計測センター」を設置しており、分析計測機器を使った製品評価などにも対応が可能です。
加えて、企業が研究開発費を調達するために国の競争的資金に応募する際に、企業1社だけでは進めることが難しいためコンソーシアムを組むことが多いですが、そういった場合に産技研にも入ってもらい技術力を高めながら、ASTEMがプロジェクト全体を管理することで、研究開発から事業化までを含めて支援をする、といったことにも取り組んでいます。

※ 地方独立行政法人京都市産業技術研究所。伝統産業から先進産業まで、地域企業を技術面から支援する公的な産業支援機関。

京都市産業技術研究所

-ASTEMから見た、ビジネス拠点としての京都の魅力を教えてください。

大学が多いため学生との接点を持ちやすいことや、京都に本社を置く大企業が多いことは、大きな魅力だと思います。オープンイノベーションに関心の高い大企業が多いので、ピッチを開催すると、結構大企業の方も参加されて、認定企業とつながる、といったこともよくあります。また、頑張っている人に対してあの手この手で応援しようとする風土があるので、非常に支援は手厚いです。「東京ではこんなことなかった」、と仰る企業もいます。他にも、“京都の特性を活かした”、という意味では、伝統・文化とテクノロジーの融合や、海外目線で見た時に京都はポテンシャルが高い場所であるという点も魅力的だと思います。
20世紀を代表する経済学者のシュンペーターは、イノベーションが起こる条件として、多様性と結節点を挙げています。多様なものが集まり、結びつくことでイノベーションが起こる可能性が増大する、京都はそんな可能性に満ち溢れたまちです。
手厚く支援しますので、まずは京都に来ていただき、このまちの重層的な魅力をしっかりと肌で感じとって、世界に向けて自らのビジネスを発信していただければと思います。

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京都市 産業観光局 企業誘致推進室

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