- VOICE
2023.01.30
株式会社エルシオ~液晶レンズを通じQOLを向上!大学発スタートアップから見た研究開発拠点としての京都~
プロフィール
李 蕣里(り じゅんり)
株式会社エルシオ 代表取締役
1986年東京都生まれ。2017年、大阪大学大学院理学研究科にて博士後期課程修了後、大阪大学大学院工学研究科にて、液晶レンズの研究開発に加わり、特任助教として事業化に取り組む。2019年株式会社エルシオを創業。2021年から現職(代表取締役社長)。2022年にグロービス経営大学院を卒業。
-御社の企業理念や事業内容を教えてください。
李さん
エルシオは、大阪大学発のベンチャー企業で、アイケア・ヘルスケア領域の新価値創造を掲げています。具体的には、我々が持つ大口径の度数可変レンズ(※1)の技術シーズを活用し、度数可変眼鏡の製品化を目指しています。
主なターゲットは、目に課題を抱えておられる方々です。老眼や近眼の方、さらに、医療分野では、小児弱視と言って、小さい時にしっかり眼鏡を掛けて治療しなければならない子もいます。
また、最近は、XR業界(※2)の方からお声掛けをいただくことが増えています。事業内容が視覚に関連することから、弊社の技術を十分に活かせる分野だと考えています。
現状は、ヘルスケアのための度数可変眼鏡とXRスマートグラスの事業に取り組んでいます。
(※1)度数可変レンズ…電子信号によって焦点距離(度数)を変化させることができるレンズ
(※2)XR…「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」といった先端技術の総称
-なるほど。レンズの技術を通じて、世の中を豊かに、ということですね。
李さん
そうですね。例えば、老眼の方が手元を見るときに、眼鏡を掛け替えたり、一旦外してから見る方がいますが、度数可変眼鏡では、ワンタッチ、又はオートフォーカスで調整が可能です。また、授業中に遠くの黒板を見るときに度数を強くし、目が疲れてきたら緩めるなど、日常生活においても多彩な使い方が考えられます。
我々は、「見たいものをもっと見えるように」。更には、「見えなかったものを見えるように」という理念を掲げています。レンズの技術を活用し、健康を助け、QOL(Quality of Lifeの略。生活の質)を向上させることを軸に、幅広い分野での展開が出来ればと考えています。
-ありがとうございます。改めて、京都移転のきっかけや、実際に京都に移転されていまどのように感じているか教えてください。
李さん
大阪大学において、共同創業者の澁谷と一緒にレンズの技術開発をしていました。国から補助を受けているプロジェクトも一区切りがあり、2022年の初め頃から、自分達の力で資金調達、事業化するために、株式会社として本格的に動くことになりました。
事業化を加速するため、改めて拠点をどこにしようかと考えた時に、私達の支援者の方が「京都のベンチャー支援は手厚いよ」と強く推してくださいました。
そして、実際に京都へ来てみると、京都市役所は勿論、ASTEM(※3)、ATR(※4)、京都産業21などの産業支援機関の方々に、様々な関係先を紹介していただきました。特にATRの方には、京都産業21が主催するエンジェルコミュニティでのピッチで興味を持っていただき、その御縁でロンドンでのアクセラレーションプログラムへ参加しましたが、現地でもATRスタッフの親身なサポートを受けることができました。
京都は、コミュニティの濃さはピカイチだと思います。一度入ってしまえば、熱心にサポートしていただけるということを、肌で実感しました。
(※3)ASTEM…公益財団法人京都高度技術研究所
(※4)ATR…国際電気通信基礎技術研究所
-ビジネスの場として、京都の環境はどうでしょうか。
李さん
京都は場所によって色々な顔がありますよね。京大桂ベンチャープラザに入居する以前は、京都の繁華街である四条烏丸~烏丸御池周辺に拠点を構えていましたが、交通の便もよく商業施設も充実しており、産業支援機関や銀行も近かったので、オフィスの立地としては凄く良かったです。
一方、京都大学桂キャンパスに隣接した産学連携・新事業創出の拠点であるここ京大桂ベンチャープラザは、余計なものがそぎ落とされて、研究開発に集中できる環境です。広いラボが格安で借りられるのがメリットですね。単に研究開発ができる施設ではなく、支援機関ネットワークを通じた産学連携や安全管理など、施設を運営する中小機構(※5)やASTEMのコーディネーターが常駐され、サポートいただいています。
さらに会社経営の面では、京都銀行からは融資やビジネスマッチングのサポート。京都信用保証協会からは、中小企業診断士や税理士等の経営・財務面の専門家派遣プログラム、海外展開のための市場開拓プログラムも御案内いただいています。本当に色々なサポートがあることを実感しています。
(※5)中小機構…独立行政法人中小企業基盤整備機構
-今後、ここ京都でどのような事業展開をお考えですか?
李さん
短期的には、企業向けレンズ自体の販売。並行して、眼鏡としての製品化を進めていきたいです。体力がついてきたら、ある程度のロットを自分達で製造していくのが理想ですが、まだまだ時間がかかります。まずは目の前の課題をクリアして、一歩一歩進んでいくことが重要です。
また、せっかく京都に拠点を設置したので、京都の強みをいかした事業展開も考えたいと思っています。例えば眼鏡のデザインは、いま京都の企業と連携して進めていますが、京都のポテンシャルを活かせるようなものになると良いなと。さらに、海外向けに事業をPRしていく時に、本社が京都にあるというのは大きなアドバンテージになると期待しています。
-最後に、京都進出を検討する方へ一言お願いします。
李さん
初期のスタートアップが「まず京都で始める」というのはとても良いと思います。
私たちは大阪大学発のスタートアップですが、京都外の大学出身だから、という雰囲気もなく、色々な方にサポートしていただいています。是非、京都を選んでみてはどうでしょうか。