- VOICE
2024.03.29
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
プロフィール
暦本 純一(レキモト ジュンイチ)<写真左>
CSO・リサーチディレクター 京都リサーチ 博士(理学)
1986年 東京工業大学理学部情報科学科修士過程修了。 日本電気株式会社、カナダ・アルバータ大学コンピュータグラフィックス研究所研究員を経て、1994年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)に勤務。2023年より現職。 2007年より東京大学大学院情報学環教授。人間の能力をテクノロジーにより拡張するHuman Augmentation、さらに人間の能力がネットワークを介し結合し拡張していく未来ビジョン、IoA(Internet of Abilities)を提唱。
柏 康二郎(カシワ コウジロウ) <写真右>
研究推進・アウトリーチオフィス ゼネラルマネジャー
2011年にソニー株式会社に入社後、パソコンやカメラの事業部で経理・経営管理に携わり、2014年にソニーグループがコートジボワールで実施したサッカーW杯パブリックビューイングプロジェクトの事務局長を務めたことをきっかけに、2015年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)に出向。研究営業として、ソニーCSLの研究成果の社会実装に尽力、2020年よりソニーCSL – 京都の立ち上げに携わる。2023年より現職。
-御社の企業理念や事業内容を教えてください。
暦本さん
ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下「ソニーCSL」とする。)は、必ずしも目先の製品やプロダクトに結び付くものではなく、長いスパンで人類に貢献するような研究を行う目的で設立されました。1988年に東京で発足し、1996年にはパリに、そして、国内初の支所を京都に2020年に開設しました。2022年にローマに拠点を設け、現在4つの拠点で活動しています。
-皆さん、どのような研究をされているのでしょうか。
暦本さん
大きい理念・方針としては、研究者のオリジナリティや自主性を大事にしています。研究テーマについても、誰かに与えられるものではなく、「人類とこの惑星の未来のためにどれだけ貢献できるのか」がテーマ選択の軸にあります。ですから、AIやテクノロジーに限定せず、例えば、シネコカルチャー(協生農法)のような農業変革、音楽を通じた脳機能の獲得など、研究者のポテンシャルを活かせるような幅広いテーマの研究を行っています。
-京都に拠点を立ち上げられました。そのきっかけや理由を教えてください。
暦本さん
日本で東京以外に拠点をつくるとしたら、京都しか思い浮かびませんでした。京都は都が1000年以上続く、世界的にも稀有な歴史文化都市だと認知されています。その一方で、伝統・歴史だけではなく、世界に通じる先端技術を持つ企業が沢山あります。また、大学・学生が多く、若い原動力に溢れています。そんな伝統と革新が織り交ざった街だからこそ発揮されるクリエイティビティがあると思っています。意識したわけではないですが、海外拠点であるパリやローマも同じことが当てはまると思います。
-京都で働かれていて、環境はどうでしょうか?
暦本さん
ちょうど京都拠点を開設したころにコロナが流行って、最初は毎日リモートワークでした。テクノロジーが発展した現代では、リモートで会議に出られますから、場所に縛られないで仕事が出来ます。通勤という視点は排除して、本当にどこに住みたいかを考えれば、京都は非常にポテンシャルが高いと感じています。
-具体的にはどのようなところに魅力を感じられましたか。
暦本さん
文化レベルの高さは言わずもがなですが、街がコンパクトにまとまっていることが魅力です。昔から職住近接のまちと言われていますが、住んでみて改めて実感しています。働くことと暮らすことが近くにあり、生活圏がコンパクトです。そして食べ物もおいしい。明日、イベントに来てくださいと言われても、市内なら受け入れられます。首都圏は、ごく一部の人たち以外、働く場所と住む場所がどうしても別になって、通勤など移動に時間を取られます。
あとは、自然が近くにあることです。少し行けば山があり、川がある。常に四季の流れを感じることができます。研究で煮詰まった時、近くを散歩しながら考えることがありますが、その点でも京都は良い環境です。
柏さん
僕は家族で引っ越してきて、娘がまだ小さいのですが、子育てにはかなり良い環境だと思っています。今住んでいる場所は、オフィスもスーパーも商店街も全部が徒歩・自転車・公共交通機関のいずれかで15分圏内にあり、さらには近くに自然を感じる京都御所や鴨川があり、自転車で行ける距離には梅小路公園と宝が池公園と大きな公園があります。東京でこれだけ便利な場所はないのではないでしょうか。
あとは、習い事で茶道をはじめたのですが、京都だと本物の文化に触れられます。裏千家流師範が普通に教室で教えられているのはとても驚きました。でも京都の方にとっては普通の感覚のようで、そこでまた驚きました。
-京都は大学・学生が多いが、採用面はどうですか。
柏さん
インターンの学生は常時10人程度いて、主にリモートでお仕事してもらっていますが、京都周辺の大学の方も多いですね。京都拠点の研究員は現在4人いますが、うち1人は京都の大学から採用しました。確かに学生・大学は多いですが、結局、就職先がないからか東京や大阪行ってしまうという話をよく聞きます。
我々のようなコンピュータサイエンスの分野を含めたIT系の企業については、京都に拠点を設置するという流れがあると聞いています。新進気鋭の企業さんがどんどん進出してくれると、学生の選択肢も広がって良いのではないかと思います。
-茶室「寂隠」を京都でスタートされました。
暦本さん
文化とデジタル技術の融合研究を一つの柱にしています。日本の伝統的な文化や芸能を、どうやってAIなどの最新技術でサポートしていくか。その実践の場としてスタートしたのが茶室「寂隠」です。
※監修:茶美会文化研究所 / 設計・施工:数寄屋建築 茶美会 / 撮影:小笠原 敏孝
※茶室名「寂隠(じゃくいん)」は暦本を中心に取り組む研究テーマ”JackIn”に由来しています。
-京都で事業展開していくにあたり、困ったことはありましたか。
柏さん
京都で受け入れてもらえるだろうか、というステレオタイプの不安は若干抱いていました。しかし私達は非常に幸運で、進出直後に知り合いの地元の方や銀行、市役所の皆さんからサポートをいただくなかで、色々な方を紹介いただき、上手く京都に馴染めました。そのおかげか、今まで3年半働いてみて、疎外感を感じたことは一度もなかったです。
実は京都は、その印象とは反対に外からくるものをナチュラルに取り込むのがとても上手だと思います。古いものの中にも新しいものを溶け込ませるのが京都ならではという感覚です。恐らく、そんなことを1000年も前からずっとやっているからですかね。
-最後に、京都進出を検討する方へ一言お願いします。
暦本さん
研究は、世界とつながることが大事です。マーケットのサイズや人口が集中していることも含めて、国内では東京が中心になっていますが、京都だと世界とよりつながることが出来る。だから地方都市に行くという感覚は全然なかったです。世界と仕事をするためにあえて京都という選択肢はいかがでしょうか。