What if I work and
live in Kyoto…

  • INTERVIEW

2022.11.29

Garden Lab株式会社~ワークライフバランスに優れた京都で、親密な関係づくりの場を提供~

築100年超の京町家を改修し、コワーキング、イベント、宿泊の複合施設として2020年にオープンしたGarden Lab。代表のウォーリン・ドゥルー・ケントさんは、IT大手Googleの社員として働いている方で、日本国内での事業拡大やグローバル展開を検討する企業や個人にこの施設を提供しています。ウォーリンさんにGarden Labの取組から、ビジネス都市としての京都の魅力や課題、アイデアまでたっぷりとお話を伺いました。(取材日:2022年10月14日)

プロフィール

ウォーリン ドゥルー ケント(Drew Kent Wallin)
Garden Lab株式会社 代表取締役

1985年カナダ生まれ。2011年ブリティッシュコロンビア大学文学アジア研究科卒業後、MEXT 研究生奨学金を受けて京都大学大学院工学研究科建築学専攻高田研究室で「京町家と庭」を研究。2014年にカナダのAppBridge Software Inc. に就職、2015年より日本代表に就任し、Google Cloudの技術パートナーとして活躍。2016年にAppBridge Japan株式会社を創業し、改修した町家に本店を置く。2017年からGoogle Cloudに入社し、2018年よりGoogle Cloud Japanに転勤。2019年にGarden Lab 株式会社を創業し、2軒の町家を改修してコワーキングと宿泊ができる施設を2020年夏にオープン。

出張時の課題を京町家で一度に解決

-起業するのにどうして京都を選んだのか、Garden Lab立ち上げに至るまでの経緯をお聞かせください。

僕は以前、カナダのスタートアップ企業で働いていました。日本支店の立ち上げを任され、国内で仕事場と家が必要になり、大学の時に留学してなじみがあった京都で京町家を借りることにしたんです。2015年当時は、リモートワークがまだ普及していない段階でしたが、やってみると効率がよく、家賃も節約できて、京都駅から東京にも出やすい。その経験から、京都はスタートアップに適した場所と思うようになりました。
その後、会社がGoogleの一部になり、今度は京都への出張が増えました。当時、毎月グループで来ているのに仕事場がなく、カフェで打合せをする状況でした。そんな時、以前の大家さんが、長らく空き家だった京町家を改修するのに、何かやりませんかと声をかけてくれたんです。仕事に集中でき、お客さんが呼べて、宿泊もできる施設を必要としていたので、京町家ならそれを一度に解決できると考えました。同じように長期的に京都でビジネスをする方々が、ゆっくり滞在して仕事ができる場を提供する目的で、会社から許可を得て、2019年5月にGarden Lab株式会社を立ち上げ、2020年にオープンしました。

-入居者はどのようにして集まっていますか?

ほとんどが知り合いの紹介です。会員は中小企業の経営者が多く、フリーランスもいます。ここは、(外国人起業家向けの)スタートアップビザの法人登記に対応できるので、JETRO(日本貿易振興機構)の紹介で会員になる方もいます。海外からの問い合わせもあります。ベンチャービジネスに海外の中小企業の中には、日本語がほぼ話せない人が多いので英語でサポートもできます。

-海外からのスタートアップ企業に対して、どのようなサービスがありますか?

会員に対しては定期的に面談し、日本のビジネスマナーや注意点を教えたり、プロジェクトの進捗を一緒に確認したり、すべきことを書き出してアドバイスしたりというサービスを提供しています。行政でもいろんなサポートがありますが、日本語がわからないと相手に全部は伝わらないし、英語での専門サービスを受けようとすると値段が跳ね上がります。以前、僕が日本支店を立ち上げた時は大企業向けの高額なサービスしかなく、予算が厳しいスタートアップ企業にはハードルが高いと感じました。Garden Labは小規模で運営しているため、すべての手順に関わると逆に料金が高くなるので、行政の方でスタートアップ企業がお手頃な価格で受けられるサービスを提供してくれると、海外からも進出しやすくなると思います。

樹齢百年のもみじが美しい中庭(Garden Lab)

コンテクスト自体を説明するプログラムがあれば

-ビジネス都市として、京都の街の魅力は?京町家を事務所として利用する魅力も教えてください。

ワークライフバランスに優れた街というところですね。近くに山も川もあって街中でも自然を感じられるし、京町家には庭もある。大都市で自然から遠ざかった環境にずっといると、ストレスがたまる人も多いのでは?僕自身はそうです。自然に触れながら働ける環境のほうが、今後のビジネスで重視されると思います。
京町家を事務所にする魅力は、ここにしかない建物のユニークさです。利便性に優れた建物なら、世界中どこにでもありますが、京町家は京都にしかない。利用者の方もそこを魅力と感じているでしょう。

-海外からのビジネスパーソンや企業の受け入れに当たって、京都の課題をどう考えておられますか?

京都はブランド力があるので、興味のある人は多いです。ただ、よその人になかなか伝わらない文化になっている。ハイコンテクスト・ローコンテクスト文化の概念で言えば、とてもハイコンテクストな文化です。共通認識があるという前提で、こういうこと「だろう」と推測してすべてを言葉にしない。逆にローコンテクスト文化は、多文化で共通の背景がない前提で、きちんと説明してコミュニケーションする。文化の違いをよく理解できていない人がハイコンテクスト文化に入るのは難しく、説明してあげないとわからないこともあります。

-そんな文化の中で京都がビジネス都市として賑わうために、考えられる解決策はありますか?

ビジネスマナーや、トラブルを未然に防ぐための最低限のルールなど、コンテクスト(文脈、背景)そのものを説明してあげるプログラムがあればいいと思います。そして、もう少しオープンに、ローコンテクストに戻してもらえたらと考えますが、文化を変えるのはとても難しい。解決策というよりも、皆さんがもう少しそのギャップを埋める方向に考えてくれたら、外の人が入っていきやすくなるのではないでしょうか。

-ウォーリンさんから見て、京都に向いている企業や個人像はありますか?

何かをつくる人が向いていると思います。ゲーム開発、製造、アートやデザインなど新しい何かをつくるクリエイティブな企業や個人。京都の素晴らしいものづくりを知り、京都に来たいと願う人は多いでしょう。しかし実際に仕事をすると、やり方があまりにも違って戸惑うケースが見られます。そんな場合でも、つくるものに敬意を持って謙虚に取り組むと、自分のスキルを上げることができる。そこでハイコンテクスト文化でのコミュニケーションの難しさを少しは省くことができると思います。

会議室としても使えるリビングルーム、天然畳でくつろげる寝室(Garden Lab)

創造性を起動する場を増やしていく

-コロナ禍で出社制限され、IT大手企業に勤めるエンジニアが京都で仕事をしていたという話を聴きました。Garden Labにも出入りされていますか?

はい。Garden Labの立ち上げ期間、僕は一旦Googleを離れ、この場所でIT業界向けにビジネスコンサルティングをしていました。知り合いの会社や、エンジニアがメインの会社と連携して仕事をしていたので、実際に出入りはありました。今年9月にGoogleに戻りましたが、今はここでリモートワークをしています。最近は同業の知り合いからも使いたいという声が増えているので、場所を提供しています。

-Garden Labを起点として、ハイクラスのエンジニアを受け入れるのに具体的に実践していることはありますか?

京町家を扱う不動産会社と連携して、エンジニアがリモートワークで京都に住める土台をつくっています。僕自身、京町家に思い入れがあるので、Garden Labでも貢献したいと思っています。実際に住みたいというエンジニアが何人かいるので、不動産会社に紹介し、リモートワークができる京町家に改修するための相談のお手伝いをしています。

ゆったりと落ち着いた雰囲気のラウンジ(Garden Lab)

-京町家を紹介する上での課題はありますか? 解決策があればあわせて教えてください。

冬は寒く、夏は暑い気候。京町家のように内と外があいまいで、障子を開閉して「環境を調整する」という考え方に、海外の人は慣れていないです。今の時代は皆、エアコンなど利便性に慣れているので、やっぱり京町家では住めないとなる場合もあるかと。僕自身、京町家が大好きで住んでいますが、正直冬は寒すぎるので断熱性がほしいところです。建物の一部でも暖かい・涼しい「環境を制御できる」空間があれば、もう少し快適に使えるのでは?そこは京都市がリーダーシップをとって、実験住宅や体験住宅を何度も、継続的につくってくれたらうれしいですね。京町家というオリジナルな建築物を残していくためにも、もっと快適に暮らせる資産になればいいと思います。

-文化や歴史、芸術、自然、多くの大学や研究機関に魅力を感じ、京都と関係性を持ちたいと考える国内外のビジネスパーソンや経営者がいます。起業や進出などビジネスの場として潜在力が高い京都で、そういう方々と連携・交流し、知見を活かしてイノベーション創出を目指していくのに、Garden Labが注力していることやアイデアはありますか?

我々は、まさしくそこに力を入れています。そういう人たちが集まれる場所として、施設にラウンジを設けて、仕事終わりにオリジナルカクテルを楽しんで いただくなど、居心地の良い交流の場を開いています。

オリジナルカクテル(Garden Lab)

会員の方々とは長期にわたって付き合っているので、それぞれのニーズや考え、ビジネスをより深く理解しています。そこでイベントを開いた時は、来てくれたビジネスパーソンと会員さんとの接点をつくるなど交流を促しています。ただ我々は小規模なので、相性の良い会員さんとの継続的なつながりや、会員のために新しい人を紹介するなど、質を求めています。親密なつながりを求めるビジネスパーソンにとっては、ここは良い場所かなと思います。
イベントは会員でなくても参加できます。いろんな人に新しいアイデアを持ってきてもらう。Garden Labはすでにそういう場になっているので、もう少し拡大して様々な分野の活動をサポートしていきたい。Spark Creativity――創造性を起動する、という表現があるように、そんな場所を京都で増やしていけたらいいのではないでしょうか。

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