- SUPPORTER
2023.12.07
「問い」から新たな価値を生み出す共創空間「QUESTION」~一人では解決できない課題を、地域と一緒に解決~
「QUESTION」は、経営者が抱える事業課題や、企業に勤める人が感じているモヤモヤ、学生が抱いている社会への疑問や就職の悩み、地域社会が直面している過疎化や環境問題など、様々な立場の人の疑問や悩み=「問い」に対し、地域の多様なジャンルの人が知恵を出し合い、一緒に課題を解決していく共創施設です。QUESTIONを介して形成されるコミュニティや課題解決に向けた支援、地域との連携事例などについて、森下容子館長にお話を伺いました。(取材日:2023年9月12日)
プロフィール
森下 容子(もりした ようこ)
京都府出身。大学卒業後、京都信用金庫に入庫。窓口や為替担当、接客チーフを経て、本部で若手育成の研修担当、イベント企画、金融商品の採用、企画などに携わる。2019年から「QUESTION」開設準備室室長。現在はQUESTION館長として、各所から寄せられる「問い」を起点に、共感や気づきの生まれるコミュニティづくりを目指している。
どんな「問い」も、寄ってたかって解決へと導く「QUESTION」
-はじめに、QUESTIONについて教えてください。
QUESTIONは、京都信用金庫(以下、京信)が運営する共創施設です。皆さんが抱える疑問や悩みを「問い」として投げかけていただき、私たちが人と人、事業と事業を繋いで、一緒に課題解決に取り組んでいます。
元々、ここは京信河原町支店があった場所で、建替えにあたり、信用金庫としての金融面のサポートだけでなく、私たちが長年京都のまちで育んできた地域や人とのつながりを活かし、皆さんの「問い」を一緒に解決するお手伝いをすることで、京都のために何かを始めようとする人の背中を押し、その積み重ねが京都のまちの活性化につながってほしい、という想いから共創施設へと大きく生まれ変わりました。
-「問い」を投げかけると、どうなるのでしょうか。
「問い」が届くと、館内のコワーキングスペースに常駐する11人のコミュニティマネージャーが受け止め、まずは何かしらお手伝いができないかという目線で、必ず一度は「問い」を投げかけた方と面談します。コミュニティマネージャー1人1人がおせっかいを焼くということを心がけており、その「問い」が疑問・悩みの本質なのか、違うアプローチがないか等、しっかりと話をお伺いします。そのうえで、私たちがお手伝いできる部分はお手伝いし、私たちだけでは難しい場合、共創に協力していただける多様な分野のアソシエイトパートナーとの連携や、94店舗ある京信のネットワークも駆使しながら、みんなで寄ってたかって支援し、一緒に解決方法を探っていきます。
なお、「問い」は対面でもオンライン(ホームページに「QUESTION POST」を設置)でも投げかけていただくことができます。
-アソシエイトパートナーはどんな方なのでしょうか。
QUESTIONの知恵袋として、「問い」の解決に力を貸してくれる存在です。法人・個人を含め現在90ほどで、中小企業の事業主や伝統産業の職人、フリーランスなど、京信と長年のお付き合いがある又はQUESTION開館後に出会った、QUESTIONの共創の理念に共感してくださる方々です。
様々な機能を備えた共創施設
-QUESTIONは8階建てと大きな建物ですが、どのような機能があるのでしょうか。
QUESTIONに投げかけられる「問い」には、ビジネスマッチングのように1対1で解決するものもあれば、様々な人の力を寄せ集めてプロジェクト化して解決していくものもあります。また、プロジェクト化といっても、プロジェクトの企画・検討や検証、走り出したプロジェクトの認知度向上など、段階は様々です。
そのため、QUESTIONには、「問い」の解決に向け、様々な段階に応じた機能があります。
<主な機能>
●1人でもビジネスに取り組むことができ、ネットワーキングにも役立つ「コワーキングスペース」(登記可能)
●ポップアップストア(期間限定店舗)の開設・テストマーケティングの実施ができる「チャレンジスペース」
●イベント開催に適した階段状の「コミュニティステップス」
●学生が無料で使用できるオープンスペース「Students Lab」
●本格的な調理設備や開放的なダイニングを備えたコミュニティキッチン「DAIDOKORO」
-施設の利用には登録が必要なのでしょうか。
コワーキングスペースの利用には会員登録が必要です。ご利用目的に応じて4種類の会員プランをご用意しています(法人・個人向け3種類、学生向け1種類)。
コワーキングスペースは様々な分野の方にご利用いただいています。日常利用されている方は約70組、そのうち約20組は京都に拠点を持ちたいということで、事業所や支店の登記をされています。地域とのネットワークや同じ分野での横のつながり、業界を越えたつながりを求めて来館されるフリーランスの方も多いです。
また、当館では、人と人をつなげるネットワークづくりを意識しており、月に2回程度、会員×会員、会員×アソシエイトパートナー、学生会員×社会人の交流会などを開催しています。交流を求める方は数多く、交流会に参加するために会員登録される方もいらっしゃいます。
QUESTIONが提供する幅広い支援
-QUESTIONのサポートの特徴を教えてください。
主に四つあります。
一つ目は、「問い」の解決に向けて、中小企業とおつなぎできることです。何か始めたい、課題を解決したいという方に対し、京信のもつ市内外の支店のネットワークをいかし、幅広い分野の中小企業とおつなぎをすることができます。また、会員になっていただくと、京信の顧客である中小企業が抱えている課題と会員の強みをマッチングする、ということもできます。
二つ目は、学生との連携です。5階にある「Students Lab」には、200人以上の学生が登録しており、毎月のべ90人程度が出入りしています。企業から学生のアイデアを事業に活かしたいという声は多く、Students Labを運営するグローカル人材開発センター(※1)と連携し、学生の学びや挑戦につながるマッチングに取り組んでいます。
三つ目は、食事・料理を通したコミュニケーションの支援です。コミュニティキッチン「DAIDOKORO」では、地域の「食」のプロと出会えるイベントから料理教室、テストキッチン、パーティー、懇親会まで、幅広い用途でご利用いただくことができます。
四つ目は、地域とのつながりが強いことです。事業に必要なネットワークやコミュニティづくりには、地域企業(※2)や民間の協力が欠かせないものです。また、京都の他の産業支援機関とも密に連携しており、「困ったことがあればQUESTIONに相談したらいい」と推薦され来館される方も増えています。
※1京都の大学、経済界、行政機関等がタッグを組み、2013年に設立された認定NPO法人。世界を見据えながら地域経済・社会の持続的な発展のために活躍する「グローカル」な人材育成を目指している。
※2本市の区域内に本店又は主たる事務所を有する、京都のまちに根差して活動する事業者
-QUESTIONが得意とする課題はどんな分野でしょうか。
どんな「問い」でも受けているので、特定の得意分野というのはありません。分野ではないですが、強いて言うなら、事業性より社会性が強いものや、公的な支援を受けづらい小規模なアイデア段階のものが多いです。京都は社会性を重視している企業が多いので、「一緒に京都を良くしていきたい」とか、「地域を豊かにしたい」という思いのあるアソシエイトパートナーがQUESTIONにはたくさんいて、積極的に協力してくれます。
老舗から中小企業、フリーランスまで幅広く支援
-これまでの支援事例をご紹介ください。
アソシエイトパートナーでもある大丸京都店と一緒に、京都を盛り上げたいという思いから、地域企業の魅力を広く伝えるために、2021年7月19日、大丸京都店と「京都の魅力向上に寄与する事業者支援に向けた業務連携契約」を締結しました。その施策のひとつとして、「クラウドファンディングにチャレンジしたいけれど、周知が難しい」という地域企業の課題(問い)について、クラウドファンディングと展示サポートを組み合わせた、京都の魅力発信プロジェクトを企画しました。
同じくアソシエイトパートナーの株式会社パルコが運営するクラウドファンディングサイト「BOOSTER」を活用し、大丸京都店およびQUESTIONにて、クラウドファンディングに挑戦する地域企業の産品や活動を展示しました。この取組は、毎年「京都の魅力発信プロジェクト『みっけ!kyoto』」として実施しており、老舗製粉所が作る甘酒と米粉のグラノーラや若手女性職人が開発するこだわりの京扇子、京都産木材を使った「亀岡里山サウナ」の建設など、現在計33件のプロジェクトを立ち上げることができ、うち26件が目標金額を達成できるなど、大変多くの方に関心を寄せていただくことができました。
また、伝統産業の職人の「若い世代に産品の魅力や技術を伝えたいが、接点がないのでどうしたらいいのか」という「問い」に対しては、SNSエキスパートの資格を持つアソシエイトパートナーとおつなぎしました。Instagramを活用し、どういうタイミングでどんな内容をどうやって投稿したらいいか、というプロジェクトに取り組んだところ、フォロワー数が急激に伸び、ファン層を広げることに成功しました。
他にも、京都の伝統・文化をテーマにした作品を制作している漫画家の「京都での認知度を上げるにはどうしたらいいのか」という「問い」がありました。読んでみると、京都のことを詳しく調べて、京都の伝統・文化に愛情を持って描かれていることが分かりました。これがちょうど夏前であったため、「祇園祭とつなげたら認知度が上がるのではないか」ということになり、通常、一個人で祇園祭の関係者にアプローチするのは難しいですが、京信とのご縁で船鉾保存会の方に話を聞いていただくことができました。船鉾保存会側にも「ホームページ以外に若い世代や子どもが楽しめる説明ツールがほしい」というニーズがあったため、漫画で船鉾の由来や歴史を説明したパンフレットを作成することになり、パンフレットは祇園祭で販売された粽とともに何千部と全国に旅立っていきました。そうして多くの人の目にふれて認知度が高まった結果、今秋に漫画の単行本の2巻目の発行が決まりました。
-学生と連携した事例はありますか。
産学連携に興味を持っていた企業が、自社製品のパッケージデザインを一新するにあたり、「現役の学生の感性を取り入れたいがどうしたらいいか」という「問い」に対し、学生会員だった京都芸術大学の学生5名とおつなぎしました。学生からデザイン案を募り、計11個のデザインからコンペで選ばれたパッケージは、東京ビックサイトでの展示会でお披露目され、今も流通しています。
縁やつながりを大事にする分、支援も受けやすい
-ビジネス拠点としての京都の魅力は、どんなところにあると思われますか。
京都は、外から見ると敷居が高く思われがちですが、1回入ってしまうととことんサポートしてくれる、「縁やつながりを大事にする情の厚い人が多いまち」です。京都で何かを始めようとする人に対しては、皆さん温かく応援してくれるためサポートが受けやすく、技術を持った中小企業が多いため、新しいビジネスにもつながりやすい魅力的なまちだと思います。
-最後に、京都進出を検討している企業に一言お願いします。
QUESTIONのようにリビングラボ的なコミュニティは全国でもあまり例がないと思いますので、京都で事業を始めたい方や新しいチャレンジを考えている方は、ぜひ気軽に「問い」を投げかけていただきたいです。ふらっと立ち寄っていただいても、私たちコミュニティマネージャーが準備万端でお待ちしていますので、どんなことでもご相談ください。私たちを足がかりにして、最初の一歩を踏み出していただき、京都の人や企業とたくさんのつながりを作っていただくことを願っています。