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2023.04.05
株式会社ネットプロテクションズ~中長期目線でのプロダクト開発ができる組織づくり、京都が国内外の開発のハブ拠点に~
後払い決済のパイオニアとして、さまざまな決済サービスの開発・運営を手がける株式会社ネットプロテクションズ。入社2年目のエンジニアの春田岬さんが、関西オフィス設立の発起人となり、京都に拠点を立ち上げたのは2018年のこと。4年が経つ今、関西オフィスが国内外の開発のハブ機能を担い始めているといいます。関西開発拠点長を務める春田さんに京都を拠点に選んだ理由や、京都と開発の相性、今後の展望などについてお話を伺いました。
(取材日:2023年1月17日)
プロフィール
春田 岬(はるた・みさき)
入社後はシステム開発を担うビジネスアーキテクトグループにて決済事業の新規機能開発PJTに関わる。新卒3年目の時に関西オフィスを設立。関西オフィスにて海外向け決済事業AFTEEの開発チームを立ち上げアプリケーション構築〜インフラ基盤構築の推進を行い8月にローンチ。2020年に全社的なAWS導入推進に向けた戦略の策定から推進を行い、2021年にはNP掛け払いのオンプレミスで稼働する決済基盤のAWS移行をリード。現在は1事業・領域に留まらず、事業横断で幅広く内製推進やプロダクト刷新に関わっている。
経営陣は京都一択でした
-御社のウェブサイトに「国内BNPL決済サービスのリーディングカンパニー」と打ち出されていますが、まずは事業内容を教えてください。
BNPLとは「Buy Now Pay Later」の略称で、「先に買って、後から支払う(=後払い)」決済システムの総称です。弊社が商品を購入する方と商品を販売する企業の間に立ってBNPL決済システムを提供することで、誰もが手元に商品がある状態で安心してお支払いができる体験を実現すると同時に、企業における決済業務のDX推進および未回収リスク保証を実現しています。現在はBtoCに閉じずBtoB決済、キャッシュレス決済、そして台湾やベトナム等の海外へと市場を拡大中です。
-関西オフィス設立の発起人になる決め手は何だったのでしょう?
入社以前より関西オフィスを立ち上げたいという話を社長から聞いていました。やりたい人がいたら、いつでも支援するスタンスだと。入社後、先輩社員に関西オフィスをつくらないのかと言われ、次第に自分事として考えるようになりました。思い返せば僕が学生の頃、エンジニアの就職先として魅力的だと感じたITベンチャー企業も、開発インターンの機会も、東京に集中していたように思います。関西は何て恵まれていないんだ、そう感じていました。このもどかしさを、もし未来の自分が解決できたら?関西でエンジニアが活躍できる環境を実現できたら?想像すると、すごくワクワクするチャレンジだなと思えたんです。市場がないなら先駆者になってつくればいい。そう考えていくと、自然と肚が決まりました。
-関西オフィス設立の目的は?そして、なぜ京都を選んだのですか?
採用と営業、開発が設立の目的です。関西の中で拠点を決めるのに、立ち上げメンバー3人で考えた一次案は大阪でした。他の県に対するアクセスと営業のしやすさを考えてのことでしたが、経営陣は京都一択でした。外国人にも知名度が高く、良い印象はあっても悪い印象が全くない。決済ブランドとしてのイメージを大事にしたのかなと思います。加えて、採用の面で考えても学生が多い京都は魅力的なエリアでした。実際に京都に拠点を構えたことは功を奏したと思います。採用に関しては、思惑通り優秀な学生と接触する機会を得られましたし、営業面でも近畿エリアの顧客開拓の他、京都の地場に根ざした企業との接点を獲得することができました。そして、京都を語る上で開発は外せないです。
開発は「ビジネスの時間軸」と切り離すのが大事
-なぜ、京都で開発なのでしょう。
京都には、過去の僕のように活躍できる環境を探しているエンジニア学生もいますし、京都好きの外国籍エンジニアも多いと聞いていたので、京都を中心にいろんなエンジニアとつながれる感覚がありました。実態として、インターン雇用も活用しながら本社の力を借りずに開発の組織をつくり、台湾オフィスと協力して決済事業をつくる取組を達成することができました。今ではベトナムにも事業展開を進めており国内外のいろんな決済事業の開発拠点として、ハブ的な機能も担い始めています。
-開発拠点として、うまく機能した理由は?
開発は、「ビジネスの時間軸」と切り離すのがすごく大事だと思います。僕個人の感覚ですが、東京はビジネス中心の街なので時間の感覚が早く、目の前の問題をいかに早く乗り越えるかの視点に偏りがちになる気がしています。短期的な成果を求めることも事業推進においては非常に大事な視点ですが、短期的成果に偏った開発をしてしまうと、負債に負債を重ねるようにシステムや組織の構造がどんどん歪になってしまいかねません。指数関数的に複雑化したプロダクトはいざビジネスとして加速したい時になかなか改修できない状況になってしまいます。
一方、京都はまち全体の時間がゆっくりで、散歩するだけでもちょっとしたオフを取りやすい環境です。「ビジネスの時間軸」と切り離してプロダクト目線で考える時間を取りやすいので、中長期に向けたプロダクト構想が練りやすいと感じています。アイデアやクリエィティブな発想って、やっぱり落ち着いている時に浮かびますよね。実際、東京から開発の社員が京都に来ると「ゆったりと落ち着いて仕事がしやすい」「これは来てみないとわからない感覚だ」と皆が言います。開発に集中できる環境があるのが、京都に拠点を設けた意義です。
それに経営陣も、関西オフィスを投資の対象として見てくれたのは追い風だったと思います。成果が出るまでに時間がかかる中で、開発の領域における信頼獲得はすごく重要でした。本社組織と差別化するのに、1年目から新しい技術チャレンジに投資する方向に振り切りました。関西で始めた技術が本社の事業にも導入されて、今では関西が技術領域をリードしている状態です。
-関西オフィスでは、特にインターン生の採用がうまくいっていると聞いています。学生の成長を促すために意識していることは?
これは僕の価値観ですが、インターン生は資産だと思っています。ただの労働力として指示した業務に従事してもらうのではなく、中長期を見据えた開発や組織運営にこそコミットしてもらう価値があると考えてます。例えば台湾の事業はプログラミングをほぼしたことがない初学者で開発を進めました。未熟だとか知見がないからと、その人の成長をあきらめるのではなく、可能性を信じて機会を提供する。そこで芽が出て次の土壌を支える木として育っていくと、過去に行った投資は次世代の人材育成とプロダクト開発の両方の側面において、今の自分たちを支える柱になってくれる。そうして組織に後から効果をもたらすのです。
中長期目線を大事にした組織づくりやプロダクト開発をおこなってきたとはいえ、実際に半年も満たない期間で決済事業をリリースして稼働していますし、そのプロダクトをベースに次の決済事業をつくる流れもできています。
-エンジニアの採用もうまくいっていると聞いていますが、その理由は何でしょう。
実は立ち上げ当初から、関西エリアに絞った中途採用はほぼしておらず、フリーランス採用に注力をしています。元々エンジニアは東京に集中していましたが、コロナの時代になってから優秀な人たちが関西に戻ってフリーランスで働いているので、賃金の単価がどこも変わらなくなっています。フリーランスの方と一緒にプロダクト開発をする中で、互いに合意すれば正社員化のルートも用意しています。
-京都で拠点を構えて4年が経ち、見えてきた課題はありますか。
東京はインターン先がたくさんあるので、インターンを通して学びと収入をセットで得られる環境に恵まれていますが、関西圏ではまだその機会が少ないです。せっかく学生生活の貴重な時間を割いてアルバイトなりインターンなりを経験するなら、対価に収入を得るだけではなく、多くの学びが得られる環境に身を投じて欲しいと考えています。とはいえ関西圏でインターン市場を作り上げるには、自社だけでなくいろんなIT企業を巻き込みながら市場をつくり上げていく必要があると思っているので、東京の企業ももっと京都に来てほしいです。
-関西オフィスの役割について、当初想定していた目的と現在の状況に違いはありますか?
組織づくりもプロダクトづくりも、ここまで実験的にチャレンジしやすい環境になるとは想定していませんでした。イノベーションを成し遂げようとする時、大企業になるほど一枚岩でつながってやりづらくなりますが、ここでは少人数でフォローして、一定の成果が出るまで守り続けることができる。これは組織を運営する中で、皆でつくりあげてきたアイデンティティです。会社全体で見れば大企業だけど、ベンチャー的に大胆な意思決定を行い、小さな仮説検証を進めていく風土がある組織は、物理的に切り出されている地方拠点だからこそやりやすい。短期的成果と思考を切り替えて取り組める環境が守られるからこそ、開発というアイデンティティに対して成長を促進できたのは間違いないです。
-京都進出を考えている会社へのアドバイスはありますか。
僕が進出時に振り返って思うのが、コワーキングから始めた方が良かったかなという点です。物理的にいろんな企業が集まる所で情報交換していたら、拠点の可能性をもう少し広げられたかもとか、ビジネスの拡大につながったかもしれないとも思うので。最初から正式に拠点を構えるより、小さくスタートして実験的にやってみるのも考え方の一つかなと。京都は自治的なコミュニティが点在していて、攻略法というのはないと思うんです。まずは小さいコミュニティに入り込める環境に身を置いて、最初の一年は京都がどういうまちなのか感覚をつかむ。そうしてライトに始めるのがいいように思いますね。