What if I work and
live in Kyoto…

「京都で暮らし、京都から働く。“Kyo-working|京ワーキング”という新しい働き方」ワークショップ・トークセッション開催レポート
  • REPORT

2022.02.15

「京都で暮らし、京都から働く。“Kyo-working|京ワーキング”という新しい働き方」ワークショップ・トークセッション開催レポート

京都における新しいワークライフスタイルを提案し、企業誘致を推進する「Kyo-working(京ワーキング)」。
2021年12月11日(土)、その可能性や新しい働き方・暮らし方を探るワークショップとトークセッションを開催しました。(トークセッションはオンラインにてライブ配信も行いました)

第1部 ワークショップ「Kyo-working」が生み出す4つのベネフィット

経営者、投資家たちのクリエイティビティを刺激することで企業誘致を促し、京都の経済活性化につなげていく――。それが「Kyo-working」というキーワードを京都市が推進する目的です。京都に事業の拠点を持つことのベネフィットとして、登壇した新色顕一郎氏(京都市企業連携営業アドバイザー)が挙げたのは4つ。

① 豊富な学生との接点
② 圧倒的な住環境
③ 特徴ある多数のコワーキングスペース
④ 拡大するスタートアップコミュニティ

第1部のワークショップでは、それらをふまえて自由にディスカッションを行いました。

中心地に大学が集積、東京よりも優秀な学生を多数採用できる

ベネフィットのひとつめは、豊富な学生との接点。京都市には、38の大学、短期大学があり、その中心地(山手線周内とほぼ同一面積)周辺には、京都大学や同志社大学、立命館大学をはじめ多くの大学が集積しています。市の人口約146万のうち約15万人、およそ1割が学生。これは東京都区部の比率と比較すると2倍近くにものぼります。

ところが卒業後になると、京都に就職できる企業が少ないために大阪や東京に出ていってしまうことが課題に。とはいえ裏を返せば、企業にとってはブルーオーシャン。競合が多い東京などに比べ、優秀な学生が集まりやすいとも言えるわけです。実際、新色氏が京都に進出したスタートアップにヒアリングしたところ、新卒の獲得数は「期待以上」であり、企業によっては、「短期のインターンシップとして募集をかけると東京よりも多く採用できた」「京大の理系学生を中心に30人が常時インターンしている」というケースもありました。

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「京都にこれだけたくさんある各大学と企業がもっと産学連携すれば、可能性が広がるのでは」とアドバイスしたのは遠山正道氏(株式会社スマイルズ代表取締役社長)。企業の側が優秀な学生と在学中からインターンシップなどで接点を持ち、即戦力として採用することも「Kyo-working」の重要なカギとなりそうです。

ゲストも交えてのワークショップの様子

家賃抑えめ、コワーキングスペースも充実、2拠点目の障壁が低い

ふたつめに、住環境も誇るべきものとなっています。新たに2拠点目を検討するとき、まず家賃が懸念点となりますが、実は、東京の家賃と比較した場合、京都市内の中京・上京・下京区といった主要地域でも、東京の荒川・板橋・江戸川区と同水準となっており、比較的借りやすい物件が多くあります。

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また、中心部以外の地域になればさらに家賃は下がります。今後は、そうした地域のブランディングや、期待されている土地に先に入って耕してくれるクリエイティブ産業の人が必要、という課題もあがりました。たとえば2023年に京都市立芸術大学が移転する京都駅東部は特に最近、注目のエリア。ここにアート系の人が集まってくることで、土地がどう変化していくのかに大きな期待が集まっています。

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京都を拠点にすることの魅力の3つめは、コワーキングスペースの存在。移住となるとハードルが高いけれども、まずはテレワークやワーケーションという形で「Kyo-working」を試してみるのもおすすめです。京都市内には、京町家をリノベーションしたコワーキングスペースや月1万円強から試せるお手軽なものまでユニークな特徴を持ったコワーキング・スペースが40以上あるという、興味深い情報も。

生活を編集する自由度を上げることができれば毎日がもっと楽しくなるはず。賃貸住宅もありきたりのものでなく、「DIY可」「退去時現状復帰不要」といった物件がもっとあったら、ユニークな発想が生み出せそうです。「もっと人が満足した時間を過ごせる空間の提供を」「自分の意志で空間も仕事環境も変えられるのが理想」との意見から、賃貸契約において制度面から変えていくべきでは、という問いも飛び出しました。

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第2部トークセッション 京都の「ボイド=空間」がクリエイティビティを刺激する

モデレーターの木村元紀氏と、山口周氏

第2部のトークセッションでは、「京都で働くことはどのような価値を生み出すのか――」。より具体的な「Kyo-working」の新しい働き方・暮らし方を探りました。ここでキーワードのひとつとなったのは「疎」、そして「ボイド(=建築用語で空間のこと)」。

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モデレーターを務めた木村元紀氏(京都市都市ブランディングアドバイザー)は、「東京はどんな場所にもビジネスが隙間なく充填されているイメージがある。京都は大きな政令指定都市でありながら、街に疎密の“疎”が結構ある。商業的な魅力からではなく人を引き付ける空間、「疎のオルタナティブスペース」がクリエイティブ系の人間に響く」と分析。

山口周氏(独立研究者、著作家)は、「ボイドを意識的に作ることが大事」と提言。かつて人が寄り付かない東ベルリンのエリアにアーティストのアトリエができて発展につながったことや、ニューヨーク・ソーホーの倉庫街にアーティストが住み着いた例を挙げ、資本主義が行きすぎてボイドを許容しない東京に対して、「京都に“疎”があるのはこの土地がボイドを許容しているから」と、京都の特徴を示しました。

山口周氏

会場からも「日本ではもともと道がボイドに近い状態だったのではないか。京都には打ち水や人の気配を感じるのれんがあり、ボイドが魅力的」「道と連続して何かが展開するときに、クリエイティブな人たちが刺激されるような気がする」とボイドの発想にインスピレーションを受けた感想が次々と聞こえてきました。

京都では働き方、働く時間軸、コミュニティが変わる

「Kyo-working」を実現するときのベネフィット4つめ、スタートアップコミュニティの拡大も、京都での働き方を語る上で外せません。 京都には、長い歴史により育まれた伝統産業から、大学・企業で生み出され、技術を取り入れた先端産業まで多様な産業構造があり、数多くの独創的な技術を持つベンチャー企業が生まれてきました。 このような背景から、京都に導かれるように拠点を移し、事業を好転させた成長企業は多数あります。その一つが、情報管理ツールを提供するノーション(Notion)。アメリカ・サンフランシスコから一時、京都に移転し、インスピレーションを得て製品を開発。 いまや同社はユニコーン企業に成長しています。

京都では今、フード、ライフ・バイオ、アニメ・映画ゲームコンテンツ等に至る幅広い分野で、数多くの先輩起業家たちが活躍しています。 その盛り上がりは、コロナ禍やスタートアップエコシステムを背景に加速し、今では400名を超えるメンバーが所属するビジネスチャットコミュニティが存在し、日々、様々な情報交換が盛んにおこなわれているようです。

また、京都市内に技術・開発拠点を設立した某IT企業は「京都で働ける」ということで、それまで苦労していたエンジニアの採用状況が改善されたそうです。

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「同じ仕事、給料なのに東京よりも『京都で働ける』というほうが労働市場において魅力的になる。仕事内容や給料以上に働く場所、生きる場所が働き手にとっての大きな関心事項になっていると思う。企業側の立場で考えると、今、給料を上げるのはきつくても、同じ条件で勤務地を京都に変えるだけで優秀な人材を採用できる。東京以外の場所で働くことを積極的に経営のオプションとして考えていったほうがいい」と山口氏。

企業680社を対象にした企業の移転・分散に関する調査によると「過去に自社の拠点・機能を東京圏以外へ移転・分散を検討したことがあるか?」という質問に対し「過去に検討し、実際に移転・分散した」が18.4%、まだ移転・分散は未実施ながらも「検討した・検討中」「検討予定」「検討する必要性があると認識している」を合わせると、およそ26%にものぼります(出典:関東経済産業局)。

特にコロナ禍を経て東京へのこだわりがなくなった企業やワーカーは増えています。どこに移るか、そこでどのように働き暮らせるのかは大きな問題ですが、今回のトークセッションで「Kyo-working」の魅力がさまざまな角度から語られ、働く、暮らす、双方の面での利点がわかりやすく整理されました。

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純粋な思考の時間を生み出せる――アフタートークで語られた京都暮らし

トークセッション後のアフタートークとして、京都で「共創自治区SHIKIAMI CONCON」を主宰しているNue inc.代表 / プランナーの松倉早星氏をオンラインで招き、京都で働くことの本音に迫る交流会を催しました。

「京都にいて人生がダイナミックに変わっていく感覚はありますか」という質問に対し、松倉氏は「制作に集中するのは京都が最適。息が抜ける場所があって、時間の流れが急に変わる空気がある。また、京都は街がコンパクトで“終電文化”がない。飲んで語ったあとに徒歩で帰れる。大学生やアーティスト、いろんな人と知り合い議論できたり友達になったりできるのも京都の特異性。東京とは違う刺激がある」と回答。仕事や人生への影響の大きさをリアルに伝えていました。

木村氏も「京都にいると、自分のビジネスやキャリアにドライブをかける純粋な思考時間を作ることができる」「割烹での店主の一挙手一投足は美しく、そこでの会話も研ぎ澄まされ、そういう純然たる時間を持つのに京都の空気が合う」と、この土地に滞在しているときの特別な感覚を表現。

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リモートで京都とつないでのアフタートークの様子。上右が松倉氏、下が井上氏

京都に在住するデザインファームKESIKI パートナーの井上裕太氏はトークセッション中、こんなエピソードを語ってくれました。

「私の妻はブランドを主宰しているのですが、東京では『どれくらい成長したの?』と聞かれることも多く、ビジネスを立ち上げたらどんどん伸ばすことを目指すのが当たり前という空気を感じていました。事業成長にフォーカスしないと仕事に向き合えていないということなのではないかと悩んでしまっていた。一方、京都では何代も前から少しずつ技術や知見を積み上げて自分の代でわずかにでも前に進むことが出来るか、という違う時間軸で仕事をしている人がたくさんいます。そういった人たちと話す中で妻は解放されて、気持ちよく一つひとつの仕事に集中できるようになった。他の場所とは異なるコミュニティや異なる会話が京都にたくさんあると実感します」。

現在の働き方を見直したい、凝り固まった思考を切り替えたいというときに、京都のコミュニティや空気が大いに役立ちそうです。

最近、木村氏は市内を自転車で移動する魅力にはまっているのだとか。
「自転車で回ると街の雰囲気が肌身に染み込んでしっくりくる。自転車で移動していると、会いたい人に会える。都市がコンパクトなので偶然会いたい人に出くわすことも多い」。
街中は坂がほとんどなくフラットで通りが碁盤目状になっていることも、自転車と京都の街の相性がよいことの理由のひとつ。自分の乗り慣れた自転車を分解して新幹線で京都まで運ぶ『輪行』、一度試してみるのもよさそうです。

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京都にしかないものを“働く”“暮らす”に生かす。今回のワークショップおよびトークセッションを皮切りに、今後も「Kyo-working」の価値・魅力も発信し続けます。

グラフィックレコーディング @iidemaiko
(会場:代官山蔦屋書店)

写真:稲葉真
テキスト:安楽由紀子


プロフィール

独立研究者、著作家、パブリックスピーカー

山口 周

1970年東京都生まれ。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『武器になる哲学』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。

KESIKI INC. Partner / Whatever Inc. CorpDev Director

井上 裕太

マッキンゼーで経営コンサルティングに従事後、独立。「WIRED」誌の北米特派員も兼務した。2014年、スタートアップスタジオのquantum設立に参加。事業開発支援及び投資を主導した。2020年、カルチャーデザインファームのKESIKIを創業。組織構築・変革案件などを担う。グッドデザイン賞審査委員。

Nue inc.代表 / プランナー

松倉 早星

1983年 北海道富良野生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。 東京・京都の制作プロダクシ ョンを経て、2011年末ovaqe inc.を設立。2017年7月より、 プランニング、リサーチ、クリ エイティブに特化したNue inc設立。代表取締役就任。 これまで領域を問わないコミュニケ ーション設計、プランニング、 戦略設計を展開し、 国内外のデザイン・広告賞受賞多数。

京都市都市ブランディングアドバイザー

木村 元紀

クリエイティブディレクターとして、国内外の多数の TVCM、キャンペーンを制作。広告制作だけに限らず、商品開発、店舗体験開発、事業開発、官公庁のプロジェクトに従事。2020 年6月に開校した UNIVERSITY of CREATIVITY では、「社会彫刻 としてのガストロノミー」研究領域長を務め、大学のプログ ラム開発を手がけた。ライフワークとして「食とアート」を 貢献の領域と定めて活動している。2022年から、京都と東京の二拠点生活を開始する予定。令和3年7月から、京都市の「都市ブランディングアドバイザー」に就任。

京都市企業連携営業アドバイザー

新色 顕一郎

FinTechスタートアップ 取締役COO。都市銀行にて中小・大企業向け融資営業、営業企画業務等に従事し、その後London Business SchoolにMBA留学。卒業後は戦略コンサルティングファームに参画し、製造業を中心に戦略プロジェクトに携わる。現在はFinTechスタートアップにて事業責任者及びファイナンス・経営企画業務等を担当。令和3年7月から、京都市の「企業連携営 業アドバイザー」に就任。

イベント開催概要

イベント名 京都で暮らし、京都から働く。“Kyo-working|京ワーキング”という新しい働き方
開催日時/場所 2021.12.11 Sat
代官山蔦屋書店/オンライン配信
登壇者 山口 周氏/井上 裕太氏/ 松倉 早星氏/新色 顕一郎氏/木村 元紀氏

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