What if I work and
live in Kyoto…

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2022.03.23

トークイベント「企業の拠点を京都にシフトする。『Kyo-working|京ワーキング』という新しいワークライフスタイルの可能性」開催レポート

京都――国内はもちろん、世界でも文化都市として圧倒的なブランド価値を持つ街。そのパワーが今、ビジネス面での京都の新たな価値として話題となっている。2022年2月20日、京都市による企業誘致プロジェクト「Kyo-working(京ワーキング)」のトークイベント「企業の拠点を京都にシフトする。『Kyo-working|京ワーキング』という 新しいワークライフスタイルの可能性」が行われた。

パネリストとして登壇したのは、独立研究者・著作家・パブリックスピーカーの山口周氏、米国・人材系ビジネスの最前線企業であるLinkedIn(リンクトイン)日本代表を務める村上臣氏、京都市に本社を置き、環境配慮型の紙パック入りミネラルウォーターを販売する株式会社ハバリーズ代表取締役社長の矢野玲美氏、京都市企業連携営業アドバイザーの新色顕一郎氏。モデレーターは京都市都市ブランディングアドバイザーの木村元紀氏が務めた。ライブ配信は約240人が視聴、注目度の高さが伺えた。

左から木村氏、山口氏、新色氏(リモート登壇)、矢野氏、村上氏

「今日は京都で働こう」が新たな文化になる

「グローバル企業はとにかく合宿が多い。環境が変わり、お互い距離が近くなるので普段とは違う議論、アイデアが出る」と語る村上氏は、自身も世界各地での合宿経験を持つ。

「僕はKyo-workingの『Kyo』が『京都』であり『今日(today)』という意味が込められている気がしています。コロナ禍でリモートワークが選択肢に入り、ワーケーションという言葉が生まれ、いろんなところで仕事ができるようになりました。それで『今日はどこで働こう』という感覚が新たに生まれたと思うんです。『そうだ 京都、行こう』という名コピーはこれまでは観光でしか使われていなかったけれど、毎日の選択肢として『今日は京都で働こう』ということがありえる。これは、今まで会社が与えていたキャリアのオーナーシップが自分視点になり、自分で自分の働き方を選ぶことにもなる。どこの会社で働くのか、どこの場所で働くのか。Kyo-workingをきっかけにして新たな文化になっていくのではないかと思いました」(村上氏)

村上氏

起業家にとってのヒントがたくさん隠れている街

2020年夏から紙パック入りのミネラルウォーター「ハバリーズ」を販売している矢野氏。「1本の水から世界が変わる」というキャッチコピーのもと、「参加型SDGsアイテム」として脱プラスチック、森林保全、リサイクルの取り組みを掲げ、ホテル、上場企業、スーパーなどで取り扱いがあるほか、内閣府や環境省など行政や自治体の会議でも採用されている。「いろんなきっかけ、ヒントがあって起業に至った」と語る矢野氏は、そのひとつとなったエピソードについて次のように語った。

「ビフォーコロナには京都の高級ホテルにさまざまな国の方がいらっしゃっていました。そうした中で、ホテルさんから『海外のVIPから、ペットボトル入りの水へのクレームがよくある』というお話を伺うことが結構多かったんです。海外のVIPの環境配慮に対する目線についての情報は、ビジネスのヒントにつながりましたし、こうした情報が集まるのも京都の魅力。京都はクローズドなコミュニティと思われがちですが、留学生を含めたくさん海外の方々がいらっしゃる。国際色豊かな観光都市で、京都しか得られない情報があるというのは武器になる。起業家にとってのヒントがたくさん隠れている街だと思います」(矢野氏)

矢野氏。テーブル手前に置いてあるのがハバリーズの水

ハバリーズはルイ・ヴィトンやシャネルの全店舗で採用されるなど、ラグジュアリーブランドのクライアントも多い。2021年には創業100周年を迎えたグッチが京都市内の寺院と町家でスペシャルイベントを行ったが、そこでもハバリーズが採用された。

「京都ではこうした展示会やイベントがとても多いんです。みなさんが思っている以上に、京都は街自体が世界に通用するブランド力を持っている。そこが出会いにつながるところも大きいと感じています」(矢野氏)

京都が持つ圧倒的なブランド力がビジネスに大いに生かされていることがよくわかる。

インスピレーションに富み、クリエイティブに向いている都市

グローバルに展開されている権威ある旅行雑誌「コンデナスト・トラベラー(Condé Nast Traveler)」の「世界で最も魅力的な大都市ランキング」で、2020年京都が1位を獲得したほか、さまざまなランキングでトップを占める京都。スティーブ・ジョブズは俵屋旅館を定宿にして碁盤目状の街をみながらアイデアを研ぎ澄まさせた。「Ingress」や「ポケモンGO」など位置情報ゲームを開発したジョン・ハンケは禅寺での瞑想によってサービスを深めていった。

今注目されている情報管理ツール「Notion」を開発した、米国のスタートアップ・Notion Labsも京都に助けられたという。Notion LabsのCOO・Akshay Kothari(アクシェイ・コターリー)が、かつてLinkedInで同僚だったという村上氏は、2月に『Notionで実現する新クリエイティブ仕事術 万能メモツールによる最高のインプット&アウトプット』(インプレス)を上梓したばかり。Notionとは縁が深い。

「創業者でのCEOであるIvan Zhao(アイバン・ザオ)たちは最初からうまくいったわけではありませんでした。失敗して会社がつぶれそうになった時に、共同経営者と2人で『ちょっと気分を変えて日本に旅行しよう』といって京都に1カ月ほど逗留した。そして、京都を自転車で周り、深夜まで宿でコーディング作業をしながら「Notion」のプロトタイプに行き着いたんです。やはり京都は、インスピレーションに富み、制作に向いている場所だと思う」(村上氏)

村上氏の元同僚であるCOOも来日して京都にいたく感動。こうしてNotion Labsの経営陣は日本好きになり、日本文化に影響を受けた。今、Notion Labのオフィスは土足禁止になっているのだそうだ。

感度が希釈されないコンパクトシティ

山口氏は、「京都に集まる人々は国際色豊かなだけでなく、美意識が高く感覚が鋭い」と分析する。2017年に著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社)を出版した際、「一番ビビッドな反応があったのは京都に拠点を置く経営者。内外の感度が鋭くて美意識が高い人が集まっていると思う」と言う。

山口氏

「東京は『東京が好きだから』というより、働く場として否応なく住んでいるという人が多く、人口は約1500万人。京都市の人口は約150万人ですが、海外から来る人も含めて感度が高い人たち、意識が高い人たちの密度がすごく高いエリアと言えます。だからホテルの冷蔵庫にペットボトルがあったことにクレームが出たりする。それが東京のように広範囲にいろいろなものがあるエリアだと、感度の高い人が1割いても、残りの9割がそうでなければ感度が希釈されてしまう。ペットボトルに対する違和感もごく一部の人が言っているだけという話になる。1割の感度の高い人だけで成り立っているところであれば『みんなが違和感を持っている』という話になり、感度は希釈されない。すなわち、京都では世の中の最先端の問題をみつけたり、最先端の人が感じている違和感に接することができる。それがビジネスの種になるんです」

新色氏は地図に半径2キロと4キロの円を重ね合わせ、京都の緊密性の高さを示した。

「烏丸御池駅を中心とした場合、半径2キロ圏内に御所、東山、京都駅、二条といった中心地が入ります。2キロは自転車10分でたどり着く範囲。かなり密ということがわかります。半径4キロ圏内になると市街地のほぼ全域がカバーされている。同じ縮尺で東京駅を中心とすると、2キロ圏内は秋葉原、浜離宮、皇居程度。4キロ圏内で上野、浜松町が入り、新宿や池袋は入らない。京都はギュッとコミュニティが凝縮されているということは地図からもわかります」(新色氏)

リモート登壇した新色氏
出所:http://yagijijii.com/google/multicirclemap.htmにて著者が作成
出所:http://yagijijii.com/google/multicirclemap.htmにて著者が作成

木村氏もこの京都のコンパクトさもビジネスにいい影響を与えると語る。

「京都は『あのお店に行くとあの人に会える』というセレンディピティ(偶然な出会い)が起きる確率が高く、これまでに何度もそのような体験をしている。この濃度が新しい絆になり、ビジネスにつながる。コンパクトシティならではだと思います」(木村氏)

京都は持続可能なお付き合いができるかを重視している

コミュニティ濃度が高いと外からは入りづらいのではないかという懸念を持たれがちだが、矢野氏によると「京都の人は短期的なお付き合いではなく、長期的に繁栄できるビジネスか、本当に京都を愛している経営者かといった、持続可能かどうかの目線で見ている」という。さらに、「一度ネットワークに入ってしまえば、行政、金融機関のみならず、大先輩の企業からのフォロー、サポートなど恩恵は大きい」(矢野氏)とも。

木村氏も同意し、「京都でビジネスをやるからには『どうやって続けていくの』『なぜそれをやりたかったの』と、理由を聞いてくる方が多い。京都人のフィードバックを受けると、事業プランがよくなるのではないかと感じるほどです」と語った。

京都市によるスタートアップ支援策も充実している。

「京都市主催のビジネスコンテストに参加しましたが、そのフォローとして、京都市の地球温暖化対策室のビジネスミーティングへの参加や、教育の現場でのSDGsに関する講演など、私から能動的にアプローチしなくても行政の方から『こういうイベントはどうですか』『こういうクライアントはどうですか』というご紹介をいただいています。補助金だけでなく、なかなかつながれないところにつなげていただけるという手厚いサポートがあるんです」(矢野氏)

「助成金などの支援の枠組みだけでなく、人的なつながりという支援にも京都市には期待できる」(木村氏)

トークイベントの様子
左から木村氏、山口氏

実際に京都で事業を行う矢野氏から実感のこもったエピソードが語られ、京都で働くことの価値、魅力を深掘りした内容となった今回のトークイベント。前回のトークイベント同様、国内外の能力の高い人材確保においても京都は有利である点についても触れられた。

ブランド価値が高いということは、高感度の人々が国籍問わず集まってくるということ。素晴らしい人材、その人と人とのつながり。京都にあふれる何にも代え難いパワーが、ビジネスをドライブする。

プロフィール

独立研究者、著作家、パブリックスピーカー

山口 周

電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。『思考のコンパス ノーマルなき世界を生きるヒント』(PHPビジネス新書)『自由になるための技術 リベラルアーツ』(講談社)など著書多数。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了。株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。

LinkedIn 日本代表

村上 臣

大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。2000年8月ヤフーに入社。一度退職した後、2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月LinkedInの日本代表に就任。複数のスタートアップの戦略・技術顧問を務めている。主な著書に『転職2.0』(SBクリエイティブ)『Notionで実現する新クリエイティブ仕事術』(インプレス)がある。

株式会社ハバリーズ代表取締役社長

矢野 玲美

京都市生まれ、京都市育ち。大学卒業後、技術系商社の中東プロジェクトメンバーとして働きながら、母親が経営するミネラルウォーター製造会社の役員を務める。2018年、25歳で事業承継し代表に就任。環境負荷が低い国内初のサステナブルな紙パックウォーターを扱う株式会社ハバリーズを2020年6月起業。

京都市企業連携営業アドバイザー

新色 顕一郎

FinTechスタートアップ 取締役COO。都市銀行にて中小・大企業向け融資営業、営業企画業務等に従事し、その後London Business SchoolにMBA留学。卒業後は戦略コンサルティングファームに参画し、製造業を中心に戦略プロジェクトに携わる。現在はFinTechスタートアップにて事業責任者及びファイナンス・経営企画業務等を担当。

京都市都市ブランディングアドバイザー

木村 元紀

クリエイティブディレクターとして多数のTVCM、キャンペーンを制作するほか、商品開発、店舗体験開発、事業開発、官公庁のプロジェクトに従事。2020年6月に開校した「UNIVERSITY of CREATIVITY」では「社会彫刻としてのガストロノミー」研究領域長を務めプログラムを開発。「食とアート」を貢献の領域と定めて活動している。

イベント開催概要

イベント名 トークイベント「企業の拠点を京都にシフトする。『Kyo-working|京ワーキング』という新しいワークライフスタイルの可能性」
開催日時/場所 2022.2.20 Sun 14:30-16:00
オンライン配信

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