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2022.12.20
トークイベント「『Kyo-working|京ワーキング』 〜 今、スタートアップが京都に注目する理由 〜」開催レポート
世界に名だたる企業やオンリーワン企業を数多く輩出してきた京都。歴史と文化に彩られた京都ブランド、多様な大学の存在、コンパクトシティ、企業に対する支援制度など、ビジネス都市としても注目度が高い。そんな京都の魅力を伝える、「京都で暮らし、京都から働く」新しいワークライフスタイル「Kyo-working|京ワーキング」を紹介する連続イベントの第1回目が2022年10月6日に開催された。イノベーションを生む京都の文化的土壌や「Kyo-working」という選択肢の魅力について語られたイベントの様子をレポートする。
文化や観光だけじゃない。ビジネス都市としての京都の魅力
京都での起業や京都への進出、京都でのワーケーションなど、さまざまな人や企業をターゲットに、「京都で暮らし、京都から働く」新しいワークライフスタイルを「Kyo-working|京ワーキング」と名付けた京都市。
国内外から評価されてきた文化・観光都市としての側面だけでなく、ビジネス都市としての魅力も発信している。京都市 企業連携営業アドバイザーの新色顕一郎氏は、企業目線での魅力は大きく4つあると語る。
「一つは京都らしいコワーキングスペースが市内に40以上あることです。町家をリノベーションしたスペースや、月額数万円からのスモールスタートが可能なシェアオフィスが点在しており、町家をオフィスにして東京から進出する企業の事例も増えています。
二つ目は職住近接のコンパクトシティであること。オフィス街の中心部である烏丸御池駅から4キロ圏内に市街地のほぼ全域がカバーされているため、多くの人が徒歩や自転車での移動・通勤をしています。東京のような満員電車の通勤ラッシュはないですし、緊密性が高いが故に生まれる出会いから、ビジネスに発展しやすいという特徴もあります。」(新色氏)
三つ目は、国内随一の学生都市であること。烏丸御池駅から4キロ圏内に京都大学や同志社大学などが集まっており、人口の10人に1人が学生だそうだ。そのため、インターンシップや新卒採用の接点を持ちやすいと言う。
そして四つ目は、グローバルとの親和性が高いこと。京都は日常的に日本らしい文化や歴史を感じられるため海外からの人気も高く、外国人コミュニティが複数存在するほか、グローバル企業も集積しつつある。加えて、外国人エンジニアを採用するために拠点を持つ日本企業も増えていると、新色氏は語る。
こうして国内外の企業で“京シフト”が進む背景には、企業誘致に注力している京都市の手厚い支援もある。補助金だけでなく、人材面でのサポートも受けられたと、京都に進出したクラス代表の久保裕丈氏は言う。
「京都市からの支援はとても手厚く、オフィスの開設だけでなく人材採用までサポートいただきました。インキュベーション施設や金融機関、産業などありとあらゆる人たちを紹介いただいて、京都市からのバックアップとネットワーキングができるスピード感は、他の地域では類を見ません。」(久保氏)
そもそも久保氏が京都に進出した背景には何があったのか。
「我々は、家具・家電の循環型サブスクリプションサービスを運営しており、必要なときに必要なものをレンタルし、不要になったら返却する、“ものを捨てない社会づくり”を目指しています。この事業をスケールさせるには行政と組む必要があると考えていたとき、真っ先に手を挙げてくださったのが京都市でした。京都は古い文化を大事にする一方で、新しい体験や文化づくりにも積極的ですし、環境に対する意識も高いので、我々のビジネスに諸手を挙げてサポートいただいています。」(久保氏)
ライフとワークの両方が高レベルで充実。QOLの高い人生に
京都はプライベートで訪れることが多いという元Linkedin日本代表の村上臣氏は、プライベートで得た情報がビジネスに役立つと語る。
「グローバル企業の日本支社で代表をしていた頃、本社からのサポートを得るためにも京都ブランドは重宝しました。プライベートで利用した飲食店やホテルなどは、本社から出張で来日した幹部たちに案内できますし、ウェルビーイングをテーマに京都のお寺で坐禅を体験してもらうと、とても高い満足度を得られました。」(村上氏)
実際、京都市内のさまざまなお寺で坐禅のワークショップが行われている。スティーブ・ジョブズが俵屋旅館でアイデアを研ぎ澄まさせていたことや、「ポケモンGO」などの位置情報ゲームを開発したジョン・ハンケが禅寺での瞑想を好んで体験していたのも有名だ。
グローバルの旅行雑誌「コンデナスト・トラベラー(Condé Nast Traveler)」の「世界で最も魅力的な大都市ランキング」で、2020年に京都が1位を獲得するなど、海外VIPからの人気は高い。
「京都は細やかな気遣いやホスピタリティに触れる機会が多いですし、禅寺での瞑想で頭をほぐすこともできます。古い建物や茶道などの文化が定着している一方で、イノベーティブな企業や新しい試みもある。それだけ視点を変えられる街なので、インスピレーションに富み、イノベーティブなプロダクトのアイデアを得やすいと思います。例えば、Notion Labの創業者であるアイバン・ザオは、事業が行き詰まり共同創業者と共に気分転換で京都へ旅行に来た際に、食事や宿泊先でのホスピタリティに触れ、京都滞在中にコーディングを行い「Notion」のプロトタイプに辿り着いたと言います。」(村上氏)
また、伝統産業や伝統工芸の職人をサポートする会社を創業したPieces of Japan Co-Founder & CEOの小山ティナ氏は、京都の魅力をこう語る。
「京都は広い土地を東京より安く購入できますし、中心地から1時間も車を走らせれば、素敵な自然がたくさんあって、雰囲気もガラリと変わります。古い建物や神社仏閣、文化、山や海などの自然に囲まれていて、のびのびと子育てができるのも京都の魅力の一つです。」(小山氏)
小山氏は、日本の伝統工芸は海外からのニーズが高いことに目をつけて、海外向けに工芸の技術を使ったライフスタイルブランドを作っている。京都に拠点を置いたことで多くの職人とのネットワークが作れたそうだ。
「京都は、金沢などの北陸や奈良県、四国など伝統工芸の職人さんが多いエリアに行き来しやすい場所でもあります。日本では伝統工芸に関する課題が山積みで、職人さんの後継者不足は深刻です。その問題を少しでも解決すべく、2022年9月に宿とショップ、金継ぎ教室を掛け合わせた店舗をオープンさせました。海外からの旅行者向けではありますが、国内の観光客にも、自分の生活に合った工芸を楽しむ文化を取り入れてほしいです。」(小山氏)
注目のビジネス・クリエイティブエリア3つ
京都市 都市ブランディングアドバイザーの木村氏は、現在のオフィス街以外にも、京都には再開発中の注目のエリアが3つあると言う。まず一つ目は「梅小路エリア」だ。
「京都駅から徒歩15分くらいの場所に、梅小路エリアがあります。そこにある『京都リサーチパーク』は、オフィスやコワーキングスペースはもちろん、高度な研究が可能なラボ施設も集積しています。」(新色氏)
京都リサーチパーク内に拠点を構える久保氏も、ものづくりやディープテックなど幅広い領域の企業が数百も集まっていて、横のつながりが生まれやすいと語る。
二つ目の注目エリアは、「京都芸大C地区」。京都駅の東部に位置するこのエリアは、2023年に京都市立芸術大学が移転する。それにより期待できるのは、新たな施設やプレイヤーが集まり、新しい生態系が生まれることだ。
そして三つ目は、京都市五条の「菊浜エリア」。ここはかつての花街で、お茶屋や遊廓だった古い建物がある場所。このエリアの再開発が始まったことで、古い建物を活用したコワーキングスペースや宿、カフェなどが次々と誕生しているという。ビジネスパートナーが菊浜エリアに住んでいるという小山氏も、このエリアは注目だと語る。
「菊浜は働きながら日本の文化や歴史を感じられる一方で、素敵な台湾茶屋があったり、フランス人がシェアハウスをしていたり、いろんな面白いことが起きています。古くからの伝統工芸もあって、注目すべき場所ではないでしょうか。」(小山氏)
京都にはイノベーションが起きる余地がある
京都の魅力はまだ尽きない。既存のオフィス街や注目のビジネス・クリエイティブエリアに国内外からの企業が集まっているだけでなく、38もの大学や短期大学が集積しているのも京都の大きな特徴だ。
人口の約1割に当たる約15万人が学生で、その割合は東京23区の約2倍だという。ノーベル賞受賞者を輩出している京都大学をはじめ、4つの芸術系大学などが存在しているため、多様な人材との接点を持ちやすい。
「ヤフー時代、学生との接点を深めるために同志社大学近くの町家を借りたら、面白いコミュニティができました。いろんな学生が入れ替わり立ち替わり来ていて、東京にはないネットワークを構築できました。」(村上氏)
また、15万人の学生は固定でいるのではなく2〜4年で入れ替わるため、採用視点だけでなくマーケット視点でも魅力的だと久保氏は語る。
「京都で一人暮らしをしている学生の多くは、卒業後に引っ越しが発生します。その際に出てしまうのが、家具や家電の大量廃棄です。でも我々のサービスを使えば、家具・家電の廃棄はなくなり、ゴミの発生抑制と再利用につながります。定着して長く住んでいる人や企業もいる反面、流動生の高い街でもあるため、ビジネスチャンスはたくさんあると思います。」(久保氏)
さまざまな観点から、ビジネス都市としての魅力に溢れている京都。密な東京に比べると「疎」の部分が多いため、イノベーションが起きる余地がたくさんあるそうだ。
「東京に住んでいたときは刺激をたくさん受けていましたが、イノベーションは京都のような自然豊かで落ち着いた場所で起きると感じています。日本の古き良き文化に触れて、それを理解すると、いろんなアイデアが出てきますよ。」(小山氏)
京都は何もない「疎」ではなく、質の高い大学とその学生、芸術、文化、坐禅による瞑想など、アイデアの種が凝縮した「疎」であることが特徴。グローバルからの評価も高く、海外人材も採用しやすいことから、今後ますます注目される都市になるのは間違いないだろう。
プロフィール
村上 臣(元LinkedIn 日本代表)
青山学院大学理工学部物理学科卒業。大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。2000年8月、株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴いヤフー株式会社入社。2011年に一度退職した後、再び2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月に8億人超が利用するビジネス特化型ネットワークのLinkedIn(リンクトイン)日本代表に就任。日本語版のプロダクト改善、利用者の増加や認知度向上に貢献し、2022年4月退任。株式会社ポピンズ 及び株式会社ランサーズの社外取締役ほか複数のスタートアップの戦略・技術顧問も務める。主な著書に『転職2.0』(SBクリエイティブ)・『Notionで実現する新クリエイティブ仕事術』(インプレス)がある。
久保 裕丈(株式会社クラス 代表取締役社長)
東京大学新領域創成科学研究科修士課程修了。2007年4月、米系のコンサルティング会社A.T.Kearney入社。2012年、ミューズコー株式会社を設立し、2015年に売却。その後、個人で数十社の企業顧問を務め、2017年にAmazonプライム・ビデオの人気恋愛リアリティ番組『バチェラー・ジャパン シーズン1』にて初代バチェラーに抜擢。2018年、「“暮らす”を自由に、軽やかに」をビジョンに、個人・法人向けに家具・家電のサブスクリプションサービス「CLAS(クラス)」を展開する株式会社クラスを設立。
小山 ティナ(Pieces of Japan株式会社 Co-Founder & CEO)
スイスで生まれ育ち、建築家である父を持つ。京都人の母から日本文化の影響と文化理解を養う。12歳からデジタル製品を作り始め、技術とデザインを融合させ、プロダクトデザイナーとしてのキャリアを築く。その後、東京とシリコンバレーで働き、目まぐるしく変化する環境でIT製品に10年以上関わる一方、永続的品質、手の温もりのある体験、そして日本文化に恩返ししたいという思いを抱く傍ら、日本中の職人さんに出会い、その多くが生計を立てることに苦労している現実を知る。この出会いを原動力にPOJ Studioを創設。
新色 顕一郎(京都市企業連携営業アドバイザー)
FinTechスタートアップ 取締役COO。都市銀行にて中小・大企業向け融資営業、営業企画業務等に従事し、その後London Business SchoolにMBA留学。卒業後は戦略コンサルティングファームに参画し、製造業を中心に戦略プロジェクトに携わる。現在はFinTechスタートアップにて事業責任者及びファイナンス・経営企画業務等を担当。
木村 元紀(京都市都市ブランディングアドバイザー)
クリエイターとして、国内外の多数の TVCM、キャンペーンを制作。広告制作だけに限らず、商品開発、店舗体験開発、事業開発、官公庁のプロジェクトに従事。2020 年6月に開校した UNIVERSITY of CREATIVITY では、「社会彫刻 としてのガストロノミー」研究領域長を務め、大学のプログラム開発を手がけた。ライフワークとして「食とアート」を 貢献の領域と定めて活動している。
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